その8 《テーマ・漫画》 『それでも町は廻っている』についてうすく語ってみる
それでも町は廻っている、が好きです。
自分でもとっちらかっていて勘違いもあるかもしれませんので、あらかじめ謝罪しておきます。
これはすごいマンガです。
普通の人達がたいして事件性もないことをしているだけなのに、むちゃくちゃおもしろいです。
そういってしまうと話自体がたいしたことない風に聞こえてしまうかもしれませんが、とんでもありません。
とにかく構成が素晴らしい。
作品中にもかなりの比重でミステリー要素がちりばめられていますが、この作者はミステリー関連に相当造詣が深そうです。
本当はコメディ系のミステリー作家になりたいんじゃないかと勘ぐってしまいます。
それくらい構成力がすばらしい。
平凡な日常会話を、構成一つでミステリーに仕立ててしまう引力を持っています。
実は自分はミステリー小説というものにまるで縁がないのですが、この作品はそういったものを超越しています。
突飛な方向性のエピソードもありますが、自分的には日常的事件系の方がおもしろく感じます。
もう一つの魅力的な要素として、ありそうでなかなかやらない時系列のシャッフルがあげられます。
たとえば高校生が入学してから卒業するまでを描く場合、一年生から三年生までを順番に経過させていきます。
その場合、一年時の文化祭をなんらかの理由で飛ばしてしまったら、二年生になってやっぱり入れときたかったなと思っても、後の祭りです。
後から思いついた話を回想シーンとして挿入するパターンもありますが、それを何度も繰り返すと見苦しくなります。
回想はあくまでも回想で、本編のつけたしにすぎません。
それに、読者心理としては、たぶん現在進行形の話を早く進めてほしいはずだからです。
この作品の場合、そういった概念自体が存在しません。
主人公達は三年生になったと思ったら、何の説明もなしに一年生に戻ったり、また何度も二年生になったりします。
冬だと思えば突然夏になったりもします。
多少混乱はしますが、一話一話が独立しているので、これがこの先、この後、どうつながるのか、などと悩むことはありません。
早い話、描きたい時に描きたい話が作れるシステムなのです。
アマゾンの仕分けシステムのようです。
俗にいう『サザエさん方式』の、さらに上をいっています。
そしてこの一見大雑把な構成に、読んでいる人達は見事に欺かれます。
壮大な引っかけを見落としてしまうのです。
最終回(?)は、とにかくやられました。
初見ではまったく気づけなかった仕掛けに、自分もまんまとやられてしまいました。
気づかなければ気づかないでおもしろい。
でも気づくと百倍おもしろい。
まるで、ミステリーに捨てるところなし、と言われているようでした。
でも、あの伏線は読めないでしょ、普通。
あそことそこがつながっているなんて……
きっと他にもいろいろなトラップや複線がちりばめられているのでしょうが、ミステリーの素養のない自分には気づけないのだと思います。
普通の人達とか言ってしまいましたが、とんでもな特殊能力を持っていないというだけで、登場人物達は充分魅力的です。
主人公の歩鳥は、クラスで一握りの可愛い子グループにギリギリ入れないくらいのごく普通の容姿なのに、クラスで人気投票をすれば必ず上位に顔を出すはずです。
何ともいいがたい独特の魅力に、歩鳥に触れた誰もが引き込まれていきます。
あの、誰が話しかけても必ず返事をしてくれる安定感こそが、何ものにも変えがたい貴重な存在なのです。
女子に話しかけて変な空気になったり、無視されたらどうしようとビビって初恋の子とも話せなかった暗黒時代をすごした自分にとって、何よりほしかったワンクッションなのです。
たぶんちょろい自分は、親しく話してくれるだけで惚れてまうかもしれません。
他にも、一見いや~な感じのモブキャラが結構いい奴だったりして、ほっこりさせてくれます。
常識人のタケル君や、つかみどころがなくてかわいいえびちゃんも好きですが、一番のお気に入りは、おっぺけぺーな妹ユキコちゃんです。
もし好みがわかれるとしたら絵柄なんでしょうが、毎週派手な展開で引っ張ってもらいたい人よりは、人知れずクスっと笑いたい人向けかもしれません。
一発目の出会いが神回だったかどうかでも、かなり印象がかわってくると思います。
たぶん、嫌いな人にすすめられない限り、大丈夫(?)だとおもいます。
ハードルを上げすぎると期待値とのバランスが保てなくなるので、ほどほどにしておきます。
ということで。
ではまた。