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04 じょしノンノンお・な・ご

「おや?」


 俺は確かに森に入ったと思っていた。

 だが、ここはもう先程の砂礫ばかりの土地だ。

 森が小さくて通り抜けてしまったのかと思い、振り向いた。


「ない! 森がないぞ」


 ここは、一体どんな世界だろうか。

 あの空飛ぶ猫に訊いても仕方がないが、使えるものは使おう。


「おい、ニャートリー」


「ニャンニャー」


 変にご機嫌がいいな。

 俺に幻覚を見せて喜んでいるのか?


「俺も無茶な注文をするが、今、どうしても水を飲みたい」


「ニャートリー」


 おいおい、ブルースクリーンか。

 これには、俺の腹減り数値しかないのだろうよ。


 ========☆

 大神直人


 HP  0008

 MP  0087

 【竜巻】0007

 ========☆


 この状況で、真剣、風の【竜巻】が何になるのだろうか。

 HPが8って、もうそろそろ俺のエナジー補給をしないと。

 薬草とかないしな。

 くっ。

 砂礫を食べれば水になるとでもいうのか。 

 俺は、あまりの渇きに涙も出ないと思っていた。

 だが、悔しくて、悔しくて、双眸から真珠のようなものがほろりと落ちる。


「砂と小石が……。これは? 空色に神々しく光り出した」


 俺は、一際光る小石に目をやる。

 何故か口元が緩み、涎が止まらない。


「俺は、人間だ。人間だぞ!」

 

 言葉とは裏腹に、小石を勢いよく掴んで、口へと運んだ。


「甘い――」


 まるで、飴玉だ。

 無感動な生活を送っていた俺が、泣いている。

 ほろほろと、苦い涙が口内に入り、飴の甘さと大混戦だ。

 母さんのご飯さえ美味しいとも何とも思わなかったのに。

 悔しまぎれの言い訳を胸で呟く。


「母さん、俺は憧弥母さんとどれ位会っていないのだろうか?」


 もう、お乳を飲ませて貰ったときの記憶などない。

 遡って、七五三のお祝いに令明(れいめい)神宮(じんぐう)へお参りしたのが、一番古い想い出だ。

 妹の優花(ゆうか)が産まれたばかりだったから、着物の母さんが横抱きで揺らしていたのが懐かしい。

 俺は、五歳だったな。

 千歳飴のべとつきで、歯の詰め物が取れたの何のと騒いだっけ。

 お祝いだと、母さんの実家がある弘前(ひろさき)から、一箱もリンゴ、ふじが送られて来た。

 ふじと言えば、幼い頃に見た岩木山(いわきさん)を富士山だと勘違いしたっけ。

 富士山に、登ってみたいな。

 皆で仲良く汗を掻けば、沢山、友達ができる気がする。


誠一(せいいち)父さんとは、会いたくない。就職について拗れるのは、もう結構だ」


 ころりと頬の飴を転がす。


「たださ。優花と会えるものなら、俺はどんな努力だってするよ。可愛い妹だからな」


 暫く、センチメンタルになっていた。

 俺の引きこもり生活って、結局は意地だったのかな。

 認めたくないがね。


「よし、これで、何も絞っても出ないと思っていた我が身から、水分を得られたよ。ニャートリー」


 俺が、首を上げると、今まで憎らしいとさえ思っていた猫鶏が応じた。


「ニャン」


 ばっさばさと、俺の肩位の高さまで、降りて来た。


 ========☆

 大神直人


 HP  0058

 MP  0099

 【珠化(じゅか)】0050

 ========☆


 ほうほう。

 HPが50上がったのか。

 確かに、腹の減り具合が違うよな。

 MPも俺的最高値に上がったな。

 最後のは、真珠の珠か?

 【珠化】というのか。

 まだお腹が空いているから、泣いて真珠の飴玉を作りたいな。


「ええと。泣けること、泣けること」


 さっきは、胸が熱くなっていたのに、今は込み上げるものがない。

 俺って冷たいヤツなのか?


「あー、じれったいなあ!」


 ぴくりとニャートリーが反応する。

 そのまま俺の前方へ羽ばたくと、ブルースクリーンを表示した。


 ========☆

 大神直人


 HP  0058

 MP  0099

 【開墾(かいこん)】0001

 ========☆


「何だ? 【開墾】とは、何だ? ニャートリーよ」


「ニャンニャー」


 俺の頭の周りを飛び回りながら啼くなって。


「俺が、懲りていないだと? どういう立場で言っているのだよ」


「ニャン!」


 俺の肩は、ニャートリーの止まり木ではないだろう。

 どきなさいと払ったが、猫鶏め、かわすのが上手くて、かすりもしない。

 結構重たいということが分かった位だ。

 要らない情報だな。

 それより何だ?

 【開墾】だって!


「これからは、【開墾】に勤しむべきだ? 何てことを。俺は働くのが最も嫌いだ」


 この異界の生き物を蹴っ飛ばしてやりたかったが、届く訳もない。


「ニャニャ。ニャー!」


「ああ、いちいちニャートリーの言葉など分からない方がよかった」


 俺は、頭を掻き毟った。


「大神直人よ。この世界に召喚された訳は、自身の胸に手を当てて考えなさい?」


 イヤなこったい。


「ニャー! ニャハハ!」


 ========☆

 女子(じょし)


 HP  ????

 MP  ????

 【女神(めがみ)】9999

 ========☆


女子(おなご)!」


 もう、俺はそこだけに反応してしまった。

 女子。

 こんな所にも女子。

 一人でも女子。

 一クラスでも女子。

 一体、どういう美味しい餌なのだ?


「女子!」


「ニャハ!」


 いやいや、ここは真面目にいこう。


「ニャートリーさん。俺、【開墾】します」


 大きく二つ頷いた。


「女子。会いたいです!」


 こうして、俺は【開墾】をするとニャートリーに誓った。

 ――カッコいいぜ、俺。

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