27 女神の中に魔女がいる
「では、各自大臣の立場に立って、奮起してくれ。俺も生クリームをがんばる。盛り付けの直前でいいな」
皆、返事をすると、材料を用意しに行った。
よく話し合ってから行動に移したから、手際がよかった。
一番手は、櫻女さんで、成程とも思ったね。
畑からたったと走って来るのも可愛い。
座布団と同じ繊維で編んだものを袋状にして、粉をふっかふかに詰めて来た。
「もう、私はがんばって薄力粉にしてあるね。コーンスターチも作って持って来ましたね。私は粉屋さんですね」
額に光る汗が可愛らしい。
ギャルゲーなら紗保里さんのポジションだよ。
次は、水仙さんだった。
「加工を一緒にして欲しい。稲そのものは持って来たが、そこから先は、庶民のこと故分からぬ」
「んん。ここには道具もないに等しいから、誰かの能力でできるかな?」
「私の小麦粉と同じでよろしければ、【散桜】でできますね」
あっと言う間にこめ油が手に入った。
米糠も使い道があるだろうから、袋にしまう。
おや?
あちらから、太陽を背負ってずんずんと近付いて来るのは?
キリストの磔刑かと思ったよ。
紫陽花さん、がんばったね。
きび砂糖にわざわざ精製して持って来てくれた。
それから、きびそのものも予備にと持って来てくれた。
うーん、齧ると甘い。
「小技を使いまして」
「ああ、小技ね」
各々集めた材料を並べたり量ったりと忙しい。
「菜七さん。ブンモモモさんのお乳は、使う時に殺菌しよう」
「それがいいと思う。大神さん」
小石を蹴りながら、秋桜さんが帰って来た。
「秋桜さん。バニラビーンズは、なかったか。それは仕方がないことだよ。諦めよう」
「あの……」
セーラー服の裾をぎゅっと握る。
「本当に、大丈夫だから。香りがあると美味しそうかなってそれ位に考えてもいいよ」
俺は、宥めるという行為は初めてしたのかも知れない。
まさかと思うだろう?
優花についても……。
兄として、だめだっ。
「栗は沢山用意したから」
「サンキュー。菊子さん」
おや、菊子さん。
そんなにブンモモモ照れなくてもいいでしょう。
百合愛さんとらぶーんなのではなかったのか。
「猫鶏がいないと、締まらないよな」
俺は、最後にニャートリーを探した。
「おーい。美味しい卵が欲しいんだ。ニャートリー」
「ニャーン。ニャン」
遠くから声がしたと思ったら、滑空して来てくれた。
菜七さんと俺で拝み倒すと、卵を少しばかり協力してくれそうだ。
「ニャニャニャン」
◇◇◇
ここで、俺の未来のブログに、モンブランについて長く書かれていても恥ずかしいな。
簡略化するか。
「俺が力技で作った型を八個用意する」
シュピーン。
卵黄、油、殺菌したての乳にさらさら小麦粉を加え、別に泡立てた卵白と混ぜ合わせる。
「きゃっきゃ。面白いね」
それを型に入れて、ニャートリーにオーブンの代わりに熱を浴びせて貰う。
ボボウ……。
「ニャートリー殿、凄まじいな」
焼き上がった生地を冷まし、次のカスタードクリームを作る。
とにかく、卵黄、砂糖、小麦粉、コーンスターチ、搾りたてだよの乳を混ぜ、あたためて冷ます。
「混ぜっ。混ぜっ。きゃはは。楽しいじゃん」
マロンペーストは、あたためて混ぜる。
「栗のお仕事は、しますよ。栗! 栗!」
ケーキを入れる紙みたいな型は、わらで作った。
「うふふ。わらわがして給うぞ」
俺の根性生クリームに砂糖、半分弱をカスタードクリームに、残りはマロンクリームに混ぜる。
「もう少しだ。根性出すぞ」
ジャジャーン。
盛り付けです。
「これは、焼き菓子とクリームの盛り合わせですか?」
「紫陽花さん。見ていたら分かるよ」
ケーキを少しくり抜き、カスタードクリーム様を盛るよ。
くり抜いた生地で蓋をし、上には生クリーム様をぺしぺし塗るよ。
「おおー」
紙の端を切って、口金のつもりでマロンクリームをぐるんぐるんに盛り付けて、可愛らしく誇らしい栗殿を頂上にトッピングして、完成!
「せーの!」
「モンブランの出来上がり!」
こうして、モンブランは出来上がった。
そうだ、思い出した。
これがお誕生日おめでとうのケーキになるって。
たはっ。
俺が赤面しそうだよ。
おお、もう茜空になったのにスクリーンが表示されるとは。
★=== クエスト006 ===★
好きなケーキを皆で囲い、
大神直人の誕生日を祝う。
================★
「ニャートリー! 近くにいるのか? 聞いてくれ。ケーキができたよ。俺の大好きなモンブランだ……!」
クエストが点滅している。
ああ、誕生日の文字が赤くなった。
「ニャートリートリートリーノ」
優しい音色で、猫鶏の影が落ちる。
「来てくれたのか。ニャートリーがいないと皆に囲まれた気がしないよ」
「ンニャ」
しまった。
照れさせてしまうと空へ行ってしまうから、控え目にしないと。
俺は、笑顔で歓迎の意を表した。
座布団に丸くなるニャートリーがビビっている。
「ンニャー!」
「行くなって。そんなに気持ち悪いかよ」
「では、大神直人さんのハッピーバースデーの意味を込めて、皆でお祝いを送りたいと思う」
お祝いって、俺は嫌われていないのか。
菜七さんが手を組んで祈り出した。
「大神直人さん。これからも幸多きこと祈り続けます――」
菜七さんが唱える。
順々に手を組み、俺へ祈を捧げられた。
静かなひとときが流れる。
「これは、私からね。大神くん」
櫻女さん。
それは、櫻女さんの分のモンブランでしょうか。
「いやよ、私じゃん。大神きゅん」
意外と友好的な百合愛さん。
二分の一になったモンブランをありがとう。
「やめなされ、わらわからでもよいじゃろう。直坊」
新人でありながら大正ロマンを感じる水仙さん。
着物のせいかな。
稲は炊いたお米の方が好きなんだけれどもね。
保存によしとしよう。
「大神殿にはお世話になったしな。どうぞ」
多分、栗かな。
菊子さんのは。
生の栗ではないらしい。
イガも取ってある。
苦労したのではないかな。
「よろしくお願いいたします。大神様……。ふう」
紫陽花さん。
新種の茸で何する気なの。
「あら、秋桜さんはいいの? 照れなくてもいいのにね」
まあ、手ぶらは気にしないよ。
気持ちだし。
「笑って笑ってー。はーい」
おお、笑顔のフラッシュだ。
「お誕生日、おめでとうございます!」
女子高生女神の各々がくれた物は、農産物だった。
下手に銀座で買って来た物よりは、あったかい感じが堪らない。
「ここまでして貰って、俺は、何かを償わなければならない」
どうしてかそう思った。
★=== クエスト006 ===★
好きなケーキを皆で囲い、
大神直人の誕生日を祝う。
================★
キラキラキラ……。
そして、賑やかにお誕生日パーティーとなり、クエスト006も瞬いて消えた。
「女子高生女神の中に魔女がいる……!」
誰かが叫んだ一言。
ざわついた中、この場ば揺れた。
――女神なのに魔女だって?




