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02 夢か現か俺の旅立ち

 何の夢だろうか?

 誰かいたら俺を起こして欲しい。

 どこまで歩いても荒涼たる景色が続く。

 杖になりそうな枯れ木も見当たらない。

 俺は、先ずこの世界で水が欲しい。


「大神直人、ここで死す訳にはいけない。水、あれが水だ……!」


 日頃、家から出なかったのがいけなかったのか。

 体力は、十代の頃より劣っているな。

 もうおっさんだ。

 二十七歳だぞ。

 歩けども、歩けどもオアシスが遠のく。

 膝は、がくがくだ。

 早く自室に戻って、VRMMOの新作、『クロス・エイジ』の続きがしたい。

 ああ、笑うなら笑われてもいい。

 俺はギャルゲーが大好きだ。

 学園ものの『シーサイドストーリーズ』は、カウントマックス保持者だ。

 九十九回がマックスなのに、エンディングを九十九回迎えた。

 それでも、もっとプレイしたいと思う。

 さっきまで『クロス・エイジ』の中で、女子高校生のみっちゃんとなかよしルートを辿っていた。

 エンディングまで、もう少しだったのに。

 そのことばかりが未練だよ。

 あの猫耳ヘアバンドの秘密が解き明かされる。

 まるで壮大な小説の何とも言いようのない読後感に似ていると思う。

 リアルに暮らす女子は落とせる訳ないからな。

 いや、俺の魅力に気付いていないだけだ。


「ああ、現実はこれだよ。くっそ。オアシスまで追い付けない。高い太陽が続き、自分の影も落ちない場所でゲームオーバーか……」


 ちょっと待てよ。

 あれは本当にオアシスか?

 聞いたことがある。

 俺もこう見えて東大学(あずまだいがく)を卒業したのだ。

 分からない訳がない。

 あれは、オアシスではない。


「ああ! こんな所で逃げ水を追い掛けてどうする」


 俺の旅が徒労だと思うと、急いでいた足が止まった。

 ゲーム的思考が始まったのか、目前に六角形のブルースクリーンが浮かび数値を表示する。

 これは一体どうしたことか。

 しかし、直ぐにスキルの表示に慣れそうだ。

 俺は、よくVRMMOをするからな。


 ========☆

 大神直人(おおがみ なおと)


 HP  0021

 MP  0050 

 【忍耐(にんたい)】0008

 ========☆


「むっ。【忍耐】が低いのはお節介だな」


 ――ふっと後ろの方に気配を感じた。

 そして、大きな風に押され、転がる。

 どういうことだ。

 俺一人の世界の筈だぞ。

 地に影が落ちる。

 誰かが日差しを塞いだのか。

 んむ?

 空から謎の飛行物体がふわふわと飛んで来るな。

 もしや、この世界の主か?


「ニャートリー! ニャーニャニャニャ」


「猫だったらどうしようか。話ができないな」


 口に手を当てて真面目に考えた。

 問題は、そこではなくて、猫が飛ぶってところではないか。

 いや、アレは、鶏の仲間だろう。

 羽をばたつかせて飛んでいる。

 空高く舞っているが、この何もない世界で、もしかしたらメシアかと思った。

 果たしてアレは何なのか。

 ピンクの主などいるのか。


「ニャートリー」


 ソレは、俺の元に静かに舞い降りた。

 その様は天界から来た天使のようだが、如何せん変わった生き物だ。


「おお? 猫と鶏の合体したようなものか?」


「ニャニャニャ」


 ふむふむ。

 猫でも鶏でもないと申すか。

 言葉が分かるな。

 それはまあ、こういう世界では、当たり前チートだったりするが。

 ということは、ゲームか異世界に来たのか?


「おい、猫鶏(ねこにわとり)。名前は何だ」


「ニャニャ」


 既に知っている筈だと?

 それで、先に名乗れか。

 全く、【不遜(ふそん)】な猫鶏め。


「俺は大神直人だ」


「ニャートリー。ニャンニャー」


 ニャートリーか。

 言われてみれば、聞いたことがあるな。

 だが、俺を【不遜】呼ばわりするのか?

 どっちがだよ。

 しかし、ここで会ったのも運命だ。

 俺の神ゲーム、『シーサイドストーリーズ』も『クロス・エイジ』もおはようイベントで出逢うと好感度が上がるのだ。

 いや、待て待て。

 最初からニャートリーとの好感度など要らないだろう?


「ニャートリーくん。水を求める道を知らないか?」


 ニャートリーが小さな嘴を開き、ニャーと声高に叫ぶと、大きなスクリーンが空に映し出された。


 ========☆

 ニャートリー


 HP  9999

 MP  9999

 【交友(こうゆう)】0000

 ========☆


「何だよ、それ。初対面ニャートリーとの【交友】は0でもいいけれどもさ、後で上げられるだろう? 他の値マックスって、自慢なのか?」


「ニャ」


 ニャートリーは、にやけているのか?

 所謂、ドヤ顔だろうな。


「それよりも、喉が渇いて仕方がない。この世界にも水はあるのだろう? 教えろよ」


 特に低姿勢は嫌いだが、背に腹はかえられない。


 ========☆

 大神直人


 HP  0021

 MP  0049

 【不遜】1111

 ========☆


「失敬だな」


 ニャートリーは、一つ啼き、さらに高く飛んだ。

 何だ?

 戻って来て俺の頭上を旋回している。

 トンビかニャートリーくん。


「俺を導いているのか。は! もしや、水のありかを教えてくれるのだろうか」


 ========☆

 (もり)(いずみ)


 HP  XXXX

 MP  XXXX

 【大昔(おおむかし)】2019

 ========☆


「おい、さっきから思っているけれども、ニャートリーはスキルで会話をするつもりか?」


 んー。

 スキルに昔というのが気になるが、他に手立てもないし、行ってみるか。


「ニャニャ」


 ========☆

 ニャートリー


 HP  0101

 MP  0101

 【転送(スマッシュボンブ)】0101

 ========☆


「ふごう。うぶぶ。強風が……!」


 結構怖いだろう!

 何か俺、飛ばされているよ?

 大丈夫?

 死なないのかよ。

 リセットマラソンはないのだろう?

 多分。


「ニャニャニャ。ニャーニャー」


「ぐあっ。あれは、森か! 森があるということは、水があるのだな」


 その後、俺は、巻き上げられるときよりも適当に降ろされた。

 だから、枝に引っかかる。

 隣の幹へ行ければ、安全に降りられそうだ。

 そう思って下を向いたときだった。

 木の周りに、お肉を待っていそうな獣が集まっている。


「し、しー。ニャートリーも黙っていな」


 ========☆

 猛獣(もうじゅう)


 HP  0050 

 MP  0048

 【烈爪(れっそう)】0126

 ========☆


 グルルルル……。

 これは、俺の腹の虫ではない。

 ――豹に似た眼光の鋭いヤツが唸る音だろう。

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