16 第一回大臣会議
「ふふふ。茸も侮れないものだな。俺の【空腹】が正常値になった。茸鍋、万歳だ!」
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大神直人
HP 0100
MP 0100
【空腹】0100
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俺は、水やりをしていた。
その間、四柱の女子高生女神達は、ゴザのような敷物を作った。
ヤシの実に似た殻は、井戸の辺りに沢山落ちている。
その実から繊維を毟って、縦横に重ねる。
できたものは、百合愛さんが一番小さかった。
お尻が細いのな。
どちらかと言えば、スレンダーじゃない方が好きだが。
まあ、今はやることがあるから、脇目を振っては、だめだっ。
俺は最後に敷物を作り、話し合いの長として腰を落とした。
「さて、第一回オオガミファーム大臣会議を始めたいと思う。その間、クエストの水やりは、櫻女さん、菜七さん、紫陽花さん、百合愛さんの順で行う。あーと、俺も臨時でやるから、勘弁してくれ」
反感を買うといけないと思い、俺も水やりに参加する。
これなら文句も出ないだろう。
皆が、首肯した。
俺はキボッチを手に、土に文字を書きながら話し始めた。
「櫻女さんは、『小麦・蔬菜大臣』で、どうだ?」
彼女が、プチプチと爪を弾いたのち、顔を上げた。
何か考えていたのか。
「むむむ。『小麦』だけで大変なのに、『蔬菜』も一度に管理するようにってことね」
学級委員長タイプでいながら、自分は動かないのかな?
俺は、そんなことないけれども。
待てよ。
高校でクラス委員をしていた頃、同じくクラス委員の相方だった立石澪さんに、文句を言われた。
皆によく指図はするけれども、大神くんはどうなのかって。
いやな黒歴史は、ぽいっとしたい。
まあ、ここは櫻女さんを丸め込もう。
「俺も手伝うから。都会っ子にでもできることはあるのだよ」
「都会っ子? そんなことありません。どんなことができますか?」
ほら、どストレートに来た。
櫻女さんは、プライドが高いのだろう。
「それは、これから示して行くよ」
櫻女さん、爪を二回弾いて、ちょっと反抗心を見せたけれども、仕方がないだろう。
大臣の数は決まっているのだ。
これから、ここで共同生活をしなければならない。
そう、自分に言い聞かせては、ため息状態なのだがな。
「菜七さんは、『家畜大臣』に向いているだろう」
「まあ、『家畜』さんですか? 可愛らしいと思う。どんな動物達かな? んー。肉牛は困ると思う」
はは、肉牛は可哀想だから嫌だとか?
霞を食べているのだから、それは食欲がなくていいだろう。
ただ、俺としては食べたいよ。
肉をな。
母さんの肉じゃがが大好き……。
いや。
そんな過去は捨てたっけな。
菜七さんは当たり障りがないから、俺でもなんとか話せる。
これからも頼むよ。
「それは、家畜が亡くなったら、祈っていただくしかない」
「少なくとも私は霞で十分です」
ほっこり笑顔で誤魔化される所だった。
「霞ばかりでダイエット中だったな」
「んー」
「誰か、違うと否定しないのか。もれなく、女子高生女神達はお腹にものを入れませんってか」
だが、俺は毎食いただきたい。
その為にも素材がいるのだ。
菜七さんに、上手く牛のような家畜を引き渡すから、育てて欲しい。
「紫陽花さんは、『茸大臣』に決まりだな」
ここで、茸を断られたら、俺、困るよ。
「猫がいてくれたら……。ふう、そうです」
「え? 猫の手も借りたいの? そんな冗句を放つとは思わなかったよ」
猫の手も借りたいなんて、女子高生女神にも通じるのか。
普通に女子高生を召喚していたら、高卒程度の知識があるってことだな。
「んー、ニャートリーは、猫鶏だよ」
それだけは、付け加えておく。
ニャートリーを連れて行かれては困ってしまう。
今や俺の最大のパートナーだから!
「百合愛さんは、『乳加工品大臣』なんて、中々いいと思うぞ」
「はうう! じゅるっ。牛きゅんのお乳を揉むですか」
えええ!
乳しぼりとかしたいんだ。
ウインクばしばし飛ばさないでくれよ。
慣れていないのだから。
「百合愛さん。もの凄く顔色が悪いけれど、大丈夫?」
「興奮しちゃって。揉むー! 直きゅん、私に任せて」
百合愛さんが、絞るポーズを取ったり、ガッツポーズを取ったりで忙しい。
そうなのですね。
そんなに鼻血ものかな?
できるのなら、お願いしますよ。
「それで、牛は何処に? 教えて欲しいじゃん」
「そうか。パンと牛乳とバターを考えていたから、つい牛の話をしてしまったな」
俺は、じっくり汗を掻く程考えた。
ニャートリーは、何処かへ行ってしまった。
「牛みたいなのを探してくるよ。クエストにはないけれども」
俺は、水やりの手を止めて、櫻女さんに代わった。
輪になっている皆の前で親指を立てた。
任せろってな。
「茸も見つけられたのですから、きっと大丈夫だと思う。大神さん」
菜七さんが俺の手を握った。
握った?
握ったんだよ!
応援の握手だな、きっと。
嬉しいのか、何なのか、悩み所ですよ。
何故か母さんの顔を見られないと思ってしまった。
俺、うぶ過ぎかな?
「うん、今から行って来る。昼頃までには帰るから、水やりしながらがんばってて」
俺は、後ろ向きに手を振って、何も持たずに去り行く。
「直きゅん、私が付いて行こうか?」
「ええ! 意外なのですが? 百合愛さん」
牛似家畜探しですよ?
女子は面白いのかな。
でも、人手があった方がいいのは確か。
背中に腕を回していた彼女がくるりとこちらを向いた。
「てへ。大臣なのだ!」
「お言葉に甘えまして、存じ上げ、候」
きょとんとすると、おちょぼ口の百合愛さんの口元が赤く染まる。
「何それ?」
「イッツ ア ジョーク」
既に、多国籍な会話になってきたので、本題に入ろう。
「あのさ、井戸の近くに、古代遺跡みたいなものがあるのだ。中は見たことないけれども、奥からぼーうぼーうと、聴こえるんだ」
「それが、家畜の牛似さんだきゅん?」
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百合愛
HP 0100
MP 1008
【愛方】3000
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「我が【愛方】よ! 牝牛似に告ぐ。さあ、集うのだ!」
百合愛の右手を胸の前に伸ばす。
そして、上へと音を取りながら高く指先を伸ばす。
「我が【愛方】よ! 牡牛似に告ぐ。さあ。集うのだ!」
百合愛さんの左手を胸の前に伸ばし、彼女の右手に交差させる。
「いやー!」
この後、どれ程の牛似さんがやって来たか、想像に難くない。
――本当の女子よりも怖いものを知った。