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刹那の誓い

作者: ななし!

最後まで読んでいただけると幸いです。

「田中さんこれお願い」

 

上司から渡された資料をサッと受け取る。

 

「はい、わかりました」

 

この仕事についてから2年になる。

 

今年で22歳。

特にトラブルもなくこの仕事にも満足をしている。

 

仕事さえしていれば、人間関係を希薄にしていても咎められないからだ。

 

 

 

そうして、勤務時間後。

 

「今日、飲み会やるんで予定空いてる人行きませんかー?」

 

「すみません、予定があるんで」

 

と一言いれて帰る。

 

いつも通りの日常だ。

 

 

いつも通りの電車に乗り、いつも通りの音楽を聴きながら帰る。

 

 

ふと自分の事を考えてみた。

 

 

人間関係がひどく辛くなってしまったのはいつからだろう、と。

 

……。

 

傷つく可能性があるのなら一人でいた方がいい。これだけはきっと得て良かった経験だ。

 

「○○〜、○○〜、降りる方はーーー」

 

 

今は辛くはないのだから。

 

 

 

 

降りた駅でいつもと違うことが起こった。

 

「あっw田中じゃね?うわw」

 

茶髪のいかにもチャラそうな奴が騒いでいる。あれは…。

 

「おい、無視すんなよ」

 

そいつに肩を叩かれた。

 

「俺だよ。俺!お前と同じクラスだった、幸太郎!」

 

もちろん覚えている。

挨拶いつも俺にしてくれたよな。

「うわwキモw」っていつもな。

 

「すみません。私、小林と言います。お間違えでは?」

 

「は?」

 

「急いでいますので、では」

 

呆けた顔をしている茶髪野郎を置き去りに、足早に帰った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

声をかけられてからずっと動機がして、冷や汗も止まらなかった。

 

シャワーを勢いよく浴びながら、なにもなかったんだと自分に言い聞かせる。

 

 

「ふぅ…」

 

2LDKの殺風景な我が家を見て気分が落ち着く。

 

特にお金を使いたいものがないのだ。

装飾品も買った試しがない。

 

「ぺらっぺらっな奴だな」

 

どうせ誰も聞いていないのだ。

今くらい自嘲してもいいだろう。

 

「…YouDubeでも見るか」

 

YouDubeをつけると今はやりのVDuberが生放送をしていた。

VDuberというのは、アバターをつかって放送をする人のことを指すらしい。

 

「会社員Tさんからのお便りですーー」

 

この前確か気まぐれでお便りを送ったな。

まさか読まれると思っていなかったので結構驚いた。

 

相反して俺の画面越しの表情は1ミリも動いていなかったが。

 

「生きていて特に悲しいとことがあるわけではないのですが、よく心に穴が空いたような感覚に襲われます。どうすれば心を満たすことができると思いますか?」

 

 

『うわw重w』『社畜なのかな?』『ヒカリちゃん困っちゃうだろw』『Tニキ強く生きろ』

 

コメントが爆速で動いている。

 

それを見てサッと俺はYouDubeを閉じた。

 

「…寝るか」

 

今日もいつも通りの1日だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「お疲れ様でした」

 

今日はいつもより早く仕事を片付けれた。

俺はテキパキと帰る支度をする。

 

「田中さん、今日も飲み会無理そうですか?」

 

部下の池下が残念そうに声をかけてくれる。

 

俺は知っている。この行動が池下のレッテルのためだと。

 

「悪い」

 

と一言入れて帰る。

 

いつも通りの日常だ。

 

 

 

 

 

今日は、いつもと帰り道を変えようと思う。

 

降りるべき駅の一つ前の駅、○○駅で電車を降りる予定だ。

 

一駅分歩くくらい問題は無い。

強いて言うなら帰りがすこし遅くなることだろうか。

…別にいいか。特にやることもない。

 

そうして着いた○○駅は閑散としていた。

 

ここの駅は立地が悪いから、当然だな。

 

 

 

「よく、こんな駅に降りようと思ったね」

 

この駅で降りたのは俺しかいない。

声の主を探っているとベンチに腰掛けた少女がいた。

 

厄介事の匂いがする。無視一択だな。

 

「あっ、酷い。せっかく勇気をだして声をかけたのに無視かー。酷いなー。泣いちゃうなー」

 

鬱陶しいこと他ない。

 

「…中学生はもう帰る時間だぞ」

 

にぱーっと少女は笑う。

 

「あっ、やっと喋ってくれた!でも残念でした。私は成人しているから!」

 

嘘だ。こんな完成度の高いコスプレ存在してたまるか。

 

「用件は?」

 

「つれないなー。まあ、いいや。私ね。明日、ここで死のうと思うんだ」

 

ニコニコにしながら少女はとんでもないことを口にした。

 

「は?」

 

「またまたー、わたしとおんなじ()をしとい

てよく言うよ。あなたのその目、私が毎朝見てる鏡越しの目とそっくりなの」

 

少女の目には深く、深く闇が広がっている。

 

あぁ、確かに見た事のある目だ。

 

「ね、私の考えてることわかるでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからさ。明日私と一緒に死なない?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

翌日、俺は会社を休んだ。

 

 

…さて、やれることをやっておくか。

 

昨日貰った連絡先に素早くメールを送信すると○○駅に向かった。

 

 

 

太陽がお空の真上に登っている頃。

 

「昨日ぶりだな」

 

昨日とは反対に俺がベンチでくつろいでいた。

 

「ちょっと、なんなのあのメール!」

 

「文字通りの意味だ。俺はお前より先、今日の昼に自殺するってな」

 

「そーいう意味じゃない!私が言ってるのは…っ!?」

 

「動くな」

少女が喚いている間に俺は距離をつめ、()()()を突きつけていた。

 

 

「今、俺に殺されるのとこれから俺と遊んで俺と死ぬのと…どっちがいい?」

 

少女の顔が驚きに染まる。

だが、直ぐに仮面のような笑顔に変わった。

 

「はぁ…自暴自棄でもなった?まぁ、いいよ。おじさんと遊んであげる…私もそのつもりだったし」

 

「そうか、なら話は速い。早速行くぞ。…言い忘れていたが、俺から逃げようとしたらその時点でお前を殺すからな」

 

「はい、はい。分かったから。さっさと連れてってよ」

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

そして現在、俺は少女と向かい合うように座っていた。

 

「どうせ、最後だしな。好きなもん食えよ」

 

 

「…………」

 

 

「どうした?そんな鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔して。もしかして中華料理は嫌いだったか?」

 

「……別に」

 

少女の顔に納得がいかないと書いてある。

それもそうか、あの雰囲気ならあれを想像するわな。

 

「あっ、すみません。俺特製チャーハン1つ」

 

「お前は?」

 

「…じゃあ、デカ盛り天津飯で」

 

「!?」

 

今度は俺が豆鉄砲を食らったような顔をする番だった。

 

 

 

「次だな」

 

腹を満たした。次はあれに行くか。

 

「ホテル?」

 

「黙れマセガキ。ほら、見えてきたろ?」

 

俺が前を指差すとそこにはーーーー。

 

「ね、ネコカフェ!?」

 

「入るぞ」

 

少女の反応を放ったらかしにして俺は先に店に入る。

 

「2人だ。時間は1時間で頼む」

 

「かしこまりました」

 

「おい、突っ立ってないでこっち来い」

 

「わ、わかったわよ」

 

そろーり、そろーりと少女は猫に近づいておもむろに猫を抱き抱える。

 

「暖かい…それに柔らかい」

 

お気に召したようでなによりだ。

俺はその辺で本でも読んでますかね。

 

 

 

 

「ねえ、タナカ」

 

カフェに入ってから数十分が経った頃、少女がこちらにやってきた。

 

「どうした。猫と遊ぶのは飽きたか?」

 

本から目を離さず、適当に受け答えをする。

 

「あなたは猫と遊ばないの?」

 

「別に俺はいい」

 

「その割にはチラチラと猫の方を見てたじゃない」

 

「なっ…お前、猫と遊んでたんじゃなかったのか」

 

「あっ、やっぱりあなた猫好きなのね」

してやったりと悪そうな笑みを浮かべる少女。

 

おい、猫をこっちにもってくるな。

やめろ。それ以上近ずけるなーーーー。

 

 

 

この後2人でめちゃくちゃもふもふした。

 

 

 

 

 

それから2人でいろいろな場所を巡った。

水族館、動物園、映画館、喫茶店ーーーー。

 

「すっごい、お楽しみでしたね〜」

 

先程からずっと少女がニタニタしてて腹立つことこの上ない。

 

「そういうお前もはしゃいでただろ」

 

2人で顔を合わせて()()()

 

「次はどこ行くの?ホテル?」

 

「そろそろ、その思考から離れろ」

 

と、次の場所に行こうとした時だった。

 

 

突然前で立ち止まった中年くらいの男に声をかけられたのは。

「ユメ…?」

 

少女の顔がピシッと硬直する。

 

(知り合いか…?)

 

「父さん…父さんだよ!」

 

自称、父は少女にまくし立て始めた。

 

「もう一回やり直そう」

 

「気づいたんだ。心の底からーーー」

 

 

「もういいです。貴方とは赤の他人です。それは絶対に変わりません。さようなら」

 

それ以上は、それ以上言うのは許さないと少女バッサリ切り捨てた。

 

「そ、そんな…」

 

立ち尽くす中年の男には目もくれず少女は俺に告げる。

 

「もう終わりにしよ?」

 

「…おう」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

昨日も訪れたはずのその駅は何だか一段と寂れて見える。

 

そんな中、電気の切れかけた防犯灯は何かを訴えかけるようにチカチカしている。そんな気がした。

 

「なぁ」

 

何気なしに俺は1歩踏み込んでみた。

 

「なに」

 

そう返す少女の目は初めてあった時の目をしていた。

 

「一緒に死ぬやつのことをなんも知らないで死ぬってもんも気分が悪い。だから、最後にお前の話聞かせろよ」

 

ははっ、と乾いた笑みを浮かべ少女はベンチに座り込んだ。

 

「うん。いいよ」

 

俺は黙って先を促す。

 

「私の両親はね。仲がとっても悪かったの。喧嘩ばっかしてた。その後いつもお母さんは私に謝ってたごめんねって。そして必ず思ってた私がいるせいで2人は一緒にいるんだって」

 

「そんなある日喧嘩に耐えかねた2人は離婚したの。私はお母さんの方について行ったの。これでやっと幸せな日々が待ってるはずだ。そう思ってた」

 

「でも違った。もうその時お母さんはボロボロだった。ストレスで色んなことに過剰に反応するようになったの。そして、それが私に矛先が向いたの。その時にーーー」

 

 

 

「私はいらない子だって、はっきり言われたの」

 

 

「………」

 

 

「もう私の存在理由はないの。これでおしまい。つまんない話でしょ?」

 

 

「そうか」

 

きっと今の少女に、あらゆる慰めは意味をなさない。

 

 

俺はどうするべきか。

俺はー。

 

 

「じゃあ、お前はなんで昨日死にたくないって顔してたんだ?」

 

「は?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ね、私の考えてることわかるでしょ?」

 

「だからさ。明日私と一緒に死なない?」

 

昨日の少女の顔、自分では笑顔を浮かべていたつもりだったんだろうが、俺の目には、どうしようもなくぎこちない笑みで、寂しそうな少女が映っていた。

 

 

 

 

俺は()()()()()

 

その日の帰り俺は自室で首を吊る予定だった。

 

だが、そんなことはどうでも良くなった。

 

初めてだ。

初めて人から必要とされている。

ひとりじゃ死ねないから一緒に死んでと。

 

その時、俺の心の穴は満たされた。

 

だがら決心した。少女にもっと必要とされたいと。どんな手段を高じても。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「お前、本当は死にたくないんだろ?」

 

ここが正念場だ。

 

「ちがう」

 

ほんとに死にたがってるやつは否定をしない。ましてや、さっきの遊びで確信している。

 

「お前は単に居場所が欲しいだけだ」

 

「ちがう」

 

俯いていて少女の顔は見えない。

 

 

「俺にはお前が必要なんだよ」

 

俺は悪魔の言葉を囁く。

 

ゆっくりと少女は顔を上げる。

その顔には僅かな期待が見える。

 

「ほんとに…?」

 

「あぁ」

 

「……」

 

そうして、少女が黙り込んで数分だっただろうか。

 

 

俺は頃合いを見て追撃する。

 

「俺がお前の心を満たしてやる」

 

「ははっ…あほらし。どうやって?」

 

「今日みたいにだ。お前のやりたいこと、お前が望めば俺はなんでも叶えてやる」

 

「…どうしてそこまでするの?」

 

「言っただろ。俺にはお前が必要なんだ」

 

 

 

 

ぽつりと、少女は呟く。

 

「でも、生きてて辛いの」

 

「心の傷の穴は消せない。だから俺と一緒にいてくれる時はそれを感じなくさせてやる」

 

「そんなのに延命に意味はあるの?」

 

「未来は何が起こるか分からないだろ?もしかしたらいいことがあるかもしれない」

 

「もし…もしタナカといても辛くなった時は?」

 

 

 

 

 

「その時は、俺も一緒に死んでやる」

 

 

「…そっか」

 

そう言うとユメはベンチから立ち上がって。

 

「じゃあ、約束だね」

 

嘘偽りのない笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

今日はいつもと違う1日だった。

 

 

読んで頂いてありがとうございました!

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