もう既に欺かれましたが
追手の一人に負傷者が出たものの、死者が出なかったことにロードリックは安堵した。
上からの命を受けて動いているだけなのだ、命を奪わずに済むならばそれに越したことはない。
そうして次には、リアティスを背に庇って立つリアティスの兄、ガイウスに視線を移した。
つまり、とんだ茶番だったのだ。
ガイウスはリアティスを憎んでなどいなかった。もしかすると、結果的にそうなったように、守るためにわざわざやって来たのかもしれない。
リアティスも、新調したという縄をうたず、ちゃんと拘束してはいなかった。
何だ…と、ロードリックは溜息を吐く。
ただ単に、普段の兄妹喧嘩だったのだ。(多分一方的、リアティスが常に勝利の)
二人ともに、あまりにも演技力がありすぎて見抜けなかった。
(やられたな…)
ロードリックが二人に近づいた時、
「えいっ」
解けて落ちた縄を拾い上げ、リアティスが再びガイウスの体に縄をかけた。
「おい…」
「何を今更…」
抱き着き作業するリアティスにロードリックが制止に入る。
だがリアティスは作業を止めず、最後は堅結びの上に蝶々結びで飾り付けると、
「敵を欺くにはまず味方からですわ」
とガイウスに笑いかけた。
(もう欺かれたんだが…)
ロードリックは内心独り言ちる。
だがリアティスの言う事もわかった。
ガイウスの真意が明らかであっても、吐き通せばならない嘘があるのだ。
ガイウスの為、ガードランド公爵家の為に。
真実は当人たちだけが知っていればいい。
「こいつらはどうする?」
ロードリックが床に転がった二人を見やる。
「あたくしにお任せになると、結果はいつも通りになりますの事よ」
「………」
「………」
ロードリックとガイウス、二人が無言のまま、瞳だけで却下を言い渡した。
一緒に旅をして、隠し事なく見聞きしたロードリックの反応はともかくとして、ガイウスも旅先での噂を充分聞かされていたようだった。それとも今までの積み重なった、常日頃の行いのせいかもしれぬが。
リアティスが
「あら…」
と残念そうに呟く。
何がそんなに残念なのか。
「しばらくは目覚めんだろう。カーテンの紐か何かで拘束しておくか」
「いや…そうじゃない」
ガイウスの提案にロードリックが口を挟んだ。
「そうじゃなく…」
「例え普段仲が悪かろうが、兄が思わず妹を庇って何が悪い?」
ロードリックの言いたいことを飲み込んで、ガイウスがしれっと言う。なるほどとロードリックが頷いた。
「信用されるか?」
「ばっくれるのは得意だ」
(流石は兄妹…)
ロードリックの内心の呟きを察したのか、ガイウスが嫌そうな顔をしてロードリックを見た。