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旅は道連れ、余は苦しゅうない  作者: 町娘おピカ
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その手の趣味はありません

勝負は割合とあっさりついた。

ガイウスの剣の腕が特別悪いといったわけではなく、ロードリックの方が実戦経験があり実践向きだったというだけだ。

形に忠実な、動きの予測しやすいガイウスに対し、野に落ちたロードリックの剣技の方が不規則であり、先を読む力があったというだけの話である。

何合かの打ち合いの末、剣を弾き飛ばされ、ガイウスがバランスを崩し床に尻餅をつくと、リアティスがそれを見て楽しそうにパチパチと拍手をした。



「やりましたわ、ロック!素敵ですわ!」

リアティスが囃し立てる。

ロードリックは倒れたガイウスに対し剣を突きつけると、抵抗できず悔し気に睨み付けるガイウスの腕を取り、無言の作業でその腕を捻る様にして背中から押さえつけた。軽くのしかかる様に押さえると、ガイウスの口から苦悶の声が漏れる。

リアティスは纏めた荷物を何やらごそごそと漁り始めると、中から荒縄を一本取り出した。

「ロープを新調した甲斐がありましたわ」

(なぜ?!)

という思いと共に、

(だからか!!)

という思いが同時に脳裏を過る。

だから雑貨屋での買い物の帰り、女将がロードリックの事を好色な目で見ていたのか。

(違う!とんだ濡れ衣だ!)

俺は断じてそんな事はしていない。

そんなプレイに興味もない。

雑貨屋の女将にそう否定に行きたい気分だったが、抗議すれば疚しい思い(断じて無い)を認めるだけになるだろう事が悔しかった。


「さっ、お兄様」

リアティスは実に活き活きと楽しそうに、新調したばかりだという細い荒縄を手にガイウスの元へとにじり寄った。

「離せ!」

ガイウスが身を捩り、ロードリックから離れようと抵抗する。リアティスはそんな自らの兄の体を拘束するために、もがくガイウスの体に荒縄を巻き付けだした。

「やめんか!」

「大人しく縛られてくださらないと、助け出された時に恥ずかしい、亀甲縛りにいたしますわよ」

「なんでそんな事知っている?!」

(俺もそう思った)

ガイウスの驚愕しながらの指摘に、ロードリックも内心同意し秘かに頷いた。

「お父様の書斎に隠してあった『図解SМ大百科』を見て覚えました」

「……父上」

さらりと言ってのけたリアティスに、ガイウスが聞き取れないほどの小さな声で力なく呟いた。

気持ちはわかる、なんとなく。

だが、同情を示せば、ガイウスはお前なんかにわかるかときっと言い返したことだろう。

がっくりと肩を落としたガイウスの体に、リアティスが二重三重に縄をかける。

そうして

「できあがりましたわ」

と、はしゃいだように喜ぶリアティスに対して、ガイウスは苦々し気に顔を歪めた。

「さっ、お兄様。知ってることを洗いざらい話してくださいませね」

後ろ手に拘束され、ガイウスは床の上に胡坐を搔くとリアティスから顔を背ける。

それの視線の先に回り込むようにして、リアティスはちょこんとお行儀よく座り兄の顔を見つめた。



ロードリックは邪魔されないよう話を聞くために、今更ながら部屋の内鍵を閉めに扉に歩み寄ると、既に内鍵がかかっていることに気付き驚いた。

あの状況で内鍵を掛けられたのはガイウスだけである。

どういうことかとガイウスを顧みた時、窓にかかったカーテンに黒い人影が写った。微かに窓が軋んだ音を立てて揺れる。

(しまった!)

油断を認めてロードリックが舌打ちする。ロードリックの表情の変化に、ガイウスもなにか気付いたようだた。ハッとしたように顔を上げ、リアティスの細い肩越しにカーテンの掛った窓を見る。

「リアティス姫!お覚悟!」

窓を破り、賊が二人、侵入し飛び込んできた。部屋に押し入った直後、一人…ロブロイがリアティスを目敏く見つけその腕を伸ばす。

「チィッ!」

「リアティス!」

ロードリックが素早く短剣を抜いてロブロイの肩に投げつけた、それと同時だった。

縄に拘束されていたはずのガイウスの体が、リアティスを抱いて横へと飛んだ。

「ギャアッ!」

ロードリックの投げた短剣に肩を刺され、ロブロイが悲鳴を上げてよろめく。

「ガ…ガイウス殿、これは一体…」

事の次第がわからず、イグナシオが当惑してガイウスとロードリックを見る。飛び込んできた時の勢いはすでに無くなり、怖気づいたように窓際へとよろめく。

ガイウスはリアティスを背に庇いながら二人の男を見据えると、ロードリックが床に置いて行った長剣を掴み、ロードリックの顔を見ずにそれを投げ渡した。

ロードリックはそれを受け取り、剣を鞘から引き抜く。イグナシオはそれを見てさらに気圧されたように数歩よろめいた。

無言のまま歩を進め、そしてチラリとリアティスたちの様子を窺い見る。ガイウスは取り上げられていた自分の長剣をリアティスから受け取ると、負傷し事態の収拾を掴めず既に戦意を喪失しているロブロイに向かい構えた。



ほぼ同時、一瞬の出来事だったろう。

ロードリックは剣を抜くこともせず、竦んで動けなくなったイグナシオに対し、一気に距離を詰め駆け寄るとその側頭部を剣の柄で強く殴りつけた。恐怖に顔を歪めたイグナシオは、抵抗も悲鳴すらあげることなく気絶する。

ガイウスもまた逃走を図ろうとしたロブロイに当て身を食らわせ、ロブロイを気絶させていた。

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