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旅は道連れ、余は苦しゅうない  作者: 町娘おピカ
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新婚新妻の心得

レアンの町で追跡の手の者に会って以来、幾らかの追手が掛ったが、リアティスの演技とロードリックの剣技で難なく切り抜けられた。

思ったよりも追手の数も少なく拍子抜けするくらいだ。

放っておいて置くと、捕らえた兵士に新たな嫌がらせを仕掛けようとするリアティスをロードリックが止めたおかげで(?)、平和に宿にも泊まれるようになった。

と言っても、こちらは訳ありなので、どうしても客の秘密を守れるような高級宿になってしまったが、そこは別に良かった。旅の安全を考えれば当然の事だ。

だが、あの初めて一夜を過ごした(なにか語弊がある)野宿の夜以来、なぜかリアティスと一緒に寝るようななったのが問題だった。

とは言っても、一緒のベッドというのは無く、同室というだけなのだが、最初の宿屋で二部屋を取ろうとしたところ、リアティスが宿屋の主人に同室で良いと言い、

「新婚です」

と嘘を吐いたのである。

それ以来ずっと嘘を吐き通され、酷い時には宿屋の主人のサービスが痛い感じの新婚さん仕様のダブルベッドの部屋を用意された。(ハート型になるように飾り付けられた花がなんだか辛かった。その日ロードリックは床で寝た)

勿論、ロートリックはリアティスに苦情を言ったのだが、

「あら、もし部屋に踏み込まれたりした時、ずっと一緒にいてくださらなければ助けていただけなくて困りますの事よ?」

と主張され、確かにその通りであると不承不承であるが了解した。

既成事実もないのに、宿の主人や偶然居合わせた客から好色な目で見られるのは辛いものがある。

だからと言って既成事実を作ろうとするほど、ロードリックは挑戦者(チャレンジャー )でも剛の者でもない。




風呂上り、ロードリックは爽やかな気分になるでもなく、ロードリックは部屋へと戻った。ノックをし、帰室を伝えると内鍵が開く音がする。

「ロック」

ドアを開けた途端、ネグリジェ姿のリアティスに出迎えられた。

思わず閉めてしまう。

だが、入らないわけにはいかなかった為、ロードリックは内心の動揺を隠して部屋に入った。

「どうかなさいまして?」

「いや……」

口ごもることで誤魔化すと、ロードリックは初めて見るリアティスの白くひらひらとしたレースのネグリジェを目を眇めるようにして眺めた。

「…どうしたんだ、それ?」

「新調致しました。やはり新婚新妻の心得は白いレースのネグリジェですわ」

(だから!既成事実も何も無いだろうが!)

叫びだしそうになるのを必死で抑えた。

リアティスは

「冗談ですわ。冗談」

と言い、ひらひらと靡くネグリジェの裾を取った。

「一着しか揃えませんでしたから、新しい物が欲しかったんですの。襲ったりしませんから安心なさってくださいませ」

(………却って不安になるだろうが)

なぜ男女真逆な心配をせねばならんのだ。



「あのな…」

「はい?」

「前から言いたかったんだが」

「なんでしょう?」

自分の寝台に腰を掛けてロードリックが切り出す。リアティスは改まったロードリックに不思議そうに小首を傾げると、同じように寝台に腰を降ろし向かい合う形をとった。

「お前の言葉遣いは変だ」

「まあ」

ロードリックの率直な言葉に、リアティスはわざとらしく驚いてみせた。そしてそんなことはわかっているのだといったように、楽し気に笑みを漏らす。

「名門貴族の姫君が知るはずもないような言葉を使うだろう」

ガメる…とか、トンヅラかます…とか、タッグを組む…とか、普通の貴族の姫君であれば知る由もなかっただろう。

「それば乳母やに問題があったのですわ」

どういうことかとロードリックは無言で先を促す。

「うちの乳母やは、もともとは長屋の女将だった方ですの」

「なんだそれは…」

あまりにも意外な答えに、ロードリックはそう言って絶句する。

「うちの父は成り上がりの達人ですから、同じく庶民の出の者を贔屓するのですわ。というわけで、長屋の女将が貴族の姫君を教育するという事で、本人は畏まった言葉遣いをしているつもりが、やたらと愉快な言葉遣いをしているという、楽しい教育をされて育ったわけですの」

(ガードランド公…、何を考えてるんだ)

なんとなく、リアティスが逞しい理由がわかった気がする。

もちろん、それだけが理由ではないだろうが。


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