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第三話 囚われの【お嬢サンタ】

「……しくしく……うぅ……しくしく……うぅうぅぅ……すん、すん……」


 そして翌朝、意識が浮上してきたところで、俺だけしか居ないはずの寝室に年若い女性の(すす)り泣く声が(かす)かに聞こえた。

 俺は頭が寝惚けているからか、その異様な状況が良く理解できなかったが、意識レベルが明瞭になるのに従って、昨夜に仕掛けた罠に【お嬢サンタ】が捕獲されたことを悟った。


 (まぶた)を開けるとカーテンの隙間から朝日が差し込んでおり、周囲の状況が見渡せた。

 ただ、裸眼であったため、視界は(もや)が掛かったかのように(にじ)んでいる。

 それでも壁際に【お嬢サンタ】らしき人影が(おぼろ)に認識された。

 そこで俺は、枕元の目覚まし時計の前に置いておいたチタンフレームの眼鏡を掛けた。

 そして寝室の壁際に膝を抱えた見知らぬ人物が、顔を(うつむ)かせて黄昏(たそがれ)ていることを確認した。

 その人物の頭髪は、吹雪を想起させるような豪奢なストレートの銀髪である。

 着衣はサンタクロースの代役であるためか、赤色を基調としていた。

 しかしながら、チューブトップにミニスカ状態のコスプレ衣装にも見える【お嬢サンタ】の制服(?)は、とてもエロい。

 多分、現地人に見咎(みとが)められた際には、コスプレ衣装を着てクリスマスを盛り上げているだけだと釈明するためだろう。

 袖口(そでぐち)襟元(えりもと)及び(すそ)には純白の毛皮が縫い付けられているが、華奢な肩と両脚の付け根を隠す純白のパンティーが ― チラリ ― と(のぞ)いている。

 乙女の秘密の花園というか、女体の神秘を確かめたいが、恥ずかしさが勝って視線を合わせられない。


 そして視線を右脚に向けると、俺が用意した高級靴下を履いていたのだ。


 つまり昨夜仕込んだ魔導書(グリモワール)の罠で【お嬢サンタ】の捕獲に成功したという(あかし)であった。


 元々、高位次元の住人であるサンタクロースや【お嬢サンタ】たちは、寝室へと簡単に侵入してクリスマスプレゼントを置くことができる。

 ところが、自身がクリスマスプレゼントと化すことで、寝室から脱出することが叶わなくなるのだとか……。

 まあ普通に考えても、所有物が勝手に出歩くことなど考えられないのだが。

 詳しい理由については、良く理解できないことであるものの、今は【お嬢サンタ】が逃げられないことが重要であった。

 因みに履いた靴下に関しては、契約の完了となる聖なる『契約の初口付け(ファーストキス)』が終わらないと脱げないそうだ。

 これも魔導書(グリモワール)による拘束魔法であるらしい。


 俺は敷き布団の下に隠してあった『支配のサークレット』を静かに取り出すと、【お嬢サンタ】に気取られないようにして近づいた。

 抜き足、差し足、忍び足で近付いて行くに従って、俺の緊張具合も見事に比例して高まっていく。

 それにしても、なんて綺麗な銀髪なんだ。俺は知らずに固唾を呑む。撫でたらとても気持ちが良さそうだ。

 対する【お嬢サンタ】は、俺の接近には気付いていない。

 俺は泣いている【お嬢サンタ】を抱き締めて(なぐさ)めてあげたかった。

 しかしながら【お嬢サンタ】を俺の彼女にするためには、為さねばならないことがある。

 そして俺は無情にも、【お嬢サンタ】の頭部に『支配のサークレット』を()めてやった。


「ひぎっ!? きゃあぁあぁぁぁ~ぁ~~」


 頭部に『支配のサークレット』を()められた【お嬢サンタ】は、絹を引き裂くような悲鳴を上げつつ()け反った。

 だがしかし、乱れた銀髪が邪魔をして顔形ははっきりとしない。

 そして装着された『支配のサークレット』は、淡い燐光を放ちつつ【お嬢サンタ】の頭部に吸い込まれていった。

 何だか幻想的な光景(シーン)だが、【お嬢サンタ】の泣き()らしたらしい顔は、銀髪の奥で絶望色に染まっているようだ。

 多分、自身の置かれた悲惨な境遇というか、末路を察しているのだろう。


 これで魔導書(グリモワール)に記された捕獲手順としては、最後の聖なる『契約の初口付け(ファーストキス)』で以て完了することになる。

 後は捕獲した【お嬢サンタ】が、俺好みの美少女であることを願うばかりだ。

 俺としては、たとえ不細工であっても『慈悲の一突き』にて命を奪うことはしたくなかった。


「ひぃ~っ! 嫌、いやぁあぁぁぁ」


 絶望から壁に(もた)れ掛って呆然としている【お嬢サンタ】に近付き、そっと前髪を掻き上げて素顔を晒してみた。

 対する【お嬢サンタ】は悲鳴をあげたが、一転して怒気を(にじ)ませる。


「ぶ、無礼な! わたくしを卑劣な罠に()めるなんて!」


「か、可憐だ!!」


 果たして、吃驚(びっくり)した様子でありながら、気丈にも俺を ― キッ ― と(にら)み付ける【お嬢サンタ】の素顔は、凛々(りり)しくも可憐であった。

 驚愕(きょうがく)と若干の(おび)えで以て見開かれた瞳は、妖しく光る藤色掛かった銀瞳という人類には見られない色彩であったが、白磁の如き(ほお)にすらっと伸びた鼻梁の下には、小振りだが桜色をして柔らかそうな唇と、すっきり整った(あご)の線が見えている。

 顔立ちとしては、白系露西亜(ロシア)人の美少女を彷彿とさせる妖精のような(はかな)さを(はら)みつつも、気位の高さも併せて(うかが)えた。


 今は俺に対する怒りで燃え上がった瞳と、真っ直ぐに(にら)んでくる視線に圧力があるような!?


 そして胸元は双丘が激しく自己主張しているのに対して、(くび)れた腰の細さは芸術的ですらあった。

 チューブトップの胸元には、形の良い鎖骨の起伏と、豊かに膨れた胸部へと続く胸の谷間の起点部分が(のぞ)いている。

 視線を下げると、太股の大部分が露出しており、短い(すそ)に隠れた部分のことが気にかかる。


 何というか、高貴な生まれの皇女様(プリンセス)を想起させる容姿だったのだ。

 はっきり言って、俺の好みが具現化したかのような正統派の美少女である。

 俺の心臓の鼓動は極限といえる程に早鐘を打ち、頭に血が上って(ほお)が灼熱に(さら)されているかのように紅潮しているという自覚がある。


「お、お願いだ。お前の名前を教えてくれ!」


 俺は【お嬢サンタ】の顔や身体を不躾(ぶしつけ)にも舐め回すように視線を向けて視姦しつつ、熱病に(かか)った患者のような状態で譫言(うわごと)のように名前を問うた。


 俺の心が如何(どう)しようもなく眼前の【お嬢サンタ】に()かれている。

 これが『恋に落ちる(フォーリンラブ)』という奴なのか……。

 本当に『恋心』というものは、突然に生まれるものであったのだ。

 そして、こんなにももどかしく、思い通りにならないものだったなんて……。


 俺は生まれて初めて感じる『恋心』というものを持て余していた。


 眼前の(うるわ)しい【お嬢サンタ】は、俺の性奴隷に堕とすことも可能な状態であるが、今の俺は恋に殉じる殉教者のような心境だ。

『恋は惚れた方が負け』という恋愛小説の一節を思い出しつつ、【お嬢サンタ】の返事を待った。


 待つ時間がこんなも長く感じるなんて……。


お読み下さり、ありがとうございます。


第四話 『雪娘』のスネグーラチカ

は、12月27日0時に予約投稿済みです。

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