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諸刃の剣

何かを犠牲にしないと、何かを手に入れられない。


手に入れたいものが大きければ大きい程、それに伴う犠牲も大きくなる。


でも、無駄な犠牲なんてないのなら、この犠牲だってきっと無駄じゃない。

以前までは7時にセットしていたはずの目覚まし時計は、今朝の6時に鳴り響いた。


寝ぼけた頭を左右に振り回して、すぐに制服に着替え、俺は台所へと向かった。


母親に手伝ってもらいながら、2段重ねのお弁当箱を埋めていく。


俺一人には十分すぎるが、二人で食べると丁度いい量だ。


「味付け、少し薄めになってるけど……。大丈夫?」


「うん、大丈夫」



これが、祥子を倒す最後のカギになるから。




その日の昼休み。


「ねえ、聞いて聞いて!」


「うん、今聞いた」


「そうだねー、っていやそうじゃなくて!!


「折角今日からお弁当を作ろうと思ってたのに、お母さんこんな日に限って寝坊で今日のお弁当ないんだよ!?


この憤り、どこに発散すればいいの!?」


「うん、俺に発散してるな、今」


別に俺の方はそれで全然かまわないんだけどな。


というか、事前に聡里さんにも話を通していたからこそ、聡里さんは今日の分のお弁当を作らなかったわけで、そうなると原因の一旦は俺にあるのだからむしろ当然というべきか。


「弁当と学校、どっちが大事だと思ってるの!?」


「お前は大事じゃないのかよ」


「私より義明!義明よりお弁当!」


「おいちょっと待て」


お前の中のお弁当のヒエラルキー高すぎるだろ。


恋人より大事なお弁当ってなんだ。


というかそもそも自分よりヒエラルキーの高いお弁当ってなんだ。


お前はお弁当に絶対服従を誓うのか?


「まあ、落ち着け。


そんなこともあろうかと、俺がキチンとお弁当を用意しておいたからさ」


「っ!そう言って、私に『あ~ん』をさせたり、逆に嫌がる私の口にその白いモノを無理やり突っ込ませる気なんでしょ、この変態!!」


「ツッコミどころのバーゲンセールやめろ、せめて普通に白米と言ってくれ。


というかそもそも白いものは無理やり突っ込ませないだろうが」


弁当を忘れただけなのに情緒不安定すぎるだろ。


まるで、女性特有の月のアレが来たみたいな……。


!?


まさか、本当にコイツにもそれが来てしまったのか!?


具体的に調べたことはないが、ホルモンバランスの乱れで心が不安定になるという内容くらいは、以前にどこかで聞いたことがある。


だとすると、俺が用意したこの一連の出来事も、祥子にとっては逆効果にしかなりえなくなってしまう。


かといって、俺は『お前、もしかして生理か?』なんて直球で聞けるような天才ではない。


いや、祥子のことだから直球で聞いたら剛速球で返してくれるとは思うけど、流石にそれは男のデリカシーというか、俺の良心が許さない。なんで勢いが増してるんですかね。


ふう~~。


それにしても、良かった。


まだ、まだ祥子に対する良心、残ってた……。


つまり俺はまだまだ常識人である Q.E.D.



……そう必死に自己弁護を図ってみたものの、残念ながらここは学校である。


そして、この学校内での俺と祥子のヒエラルキーを比べると、多分100:0くらいで祥子が勝ってしまうのだ。俺にも清き一票はないんですか!?


まあ、なんだ、その、つまり。



クラス中から刺さる視線が怖すぎる。


恨み、妬みを持った「コロス……、アイツ、コロス……」とか、「よくも私のお姉さまを……あの泥棒犬!!」とか、そんな冗談めいた非難ならまだいい。


「うわー……。潮くんって、そんな変態だったんだ……。」とか、「いい人だと思ってたのに……。ショックだな」のように、本気でドン引きしたり不快なものを見てしまったかのように冷徹な視線を送ってくる方は、割とヤバいかもしれない。


これ、冗談だからね!?そんなことやったことないからね!?


やってもないのに非難されるのだったら、もういっそのことやってから非難された方がずっとマシだったかもしれない。そんな度胸があれば苦労はしないけど。


「っ!?え、あの!?」


別に目立つのが嫌いという訳ではないが、これ以上ここにいては俺の悪評が更に加速していくばかりなので、俺は思わず祥子の手を取って教室を出る。


後ろから聞こえてきたクラスメイトの騒音や、廊下ですれ違った人たちの冷やかしの声は、聴かなかったことにした。



でも、何かを忘れているような……?何だろう?



2つの校舎に挟まれた渡り廊下の中に、ポツリとそびえたつ木々で形作られた中庭までやってきて、少し汗ばんだ頬を拭う。


中庭的な扱いになっているこのあたりの場所は、学校の中でも有名な穴場スポットになっていて、時折ここで昼食をとる人も見かけることがあるが、今日は運よく誰もいなかったので、日陰になっているベンチを探して二人で腰掛ける。


ふぅーーー。


どうして俺は弁当を食べようとするだけでこんなに疲れているんだ……。


授業を理解しようとする疲労なんかよりも、この10分間の間の心労の方がよっぽど酷かった。


その元凶さんは元凶さんで、顔を俯かせたまま無言を貫いていらっしゃる。


喋ったら喋ったでいっつも主導権を握られて大変だが、こうして黙って俯かれると何もしてないのに謝りたくなるほど良心が痛むのでやめてほしい。俺はコイツにどうして欲しいのだろうか。


「……えーと、その。


2つほど言いたいんだけど、いいかな?」


顔を俯かせたままで、祥子がか細い声で呟く。


真横に視線を動かすと、下を向いている祥子の白くて滑らかそうなうなじがハッキリと見えて思わずドキリとする。


頬を染めながらつぶやく彼女の一挙手一投足から目が離せそうにないな……。と思ったところで、ようやく右手につないだままの柔らかな手の感触に気が付いた。


「お、おう。なんだ?」


まるで付き合った当初のように、挙動不審になりながら祥子のその姿に見惚れる。


「まず一つ。


……えっとね、手、繋いでくれて、嬉しかった。


皆の前で突然握られて、『ああ、私はこの人のものなんだなぁ』って皆に見せつけてる感じがして、恥ずかしかったけど嬉しかったよ?」


普段の態度とは違い、顔の赤さを隠そうとしないままで、その純粋な本心を笑顔のままで教えてくれた祥子の可愛さに、またもや脳が揺さぶられる。可愛すぎて褒め言葉が追いつかない。


右手から伝わってくる温もりの量も、心なしかさっきよりも格段に増えた気がした。


なるほど、どうやら祥子は本気で照れるといつもとは真逆で大人しくなるらしい。


う~ん、天使だな~。


俺が童貞じゃなかったら間違いなく押し倒してるに違いない。サンキュー童貞。



口に出そうとした返事が上手く言えないまま、祥子が追撃の言葉を続ける。


アカン、悶え死ぬぅ!



「あと、もう一つ。


……。


お弁当、忘れてるよ?」




……。


あ。


「あ。」


さっき、何かを忘れていたと思ったら、それかぁ。


それですか。


……。


そっかぁ。



「俺、無事にお弁当持って帰ってこれたら、結婚するんだ……」


「死ぬの!?」



あの地獄のような視線に、俺はもう一度耐えないといけないらしい。


まあ、こうして俺の隣にはセーブポイント(3次元)が存在するのだから、死んだらまたやり直せばいいか……。


なんだか無性に頭が撫でたくなって、祥子の元を去る前にポンポンと頭を触ってやると、「はふぅ」と可愛すぎる声が飛んできて即死した。


ちょっと待ってよセーブポイントで死ぬとか聞いてないんだが???


×××



流石に物理的に死ぬことはないので、社会的な致命傷を負いながらもなんとか弁当を持って戻ってきた。


なんで俺のあずかり知らぬところで俺が強姦魔になっているんだ。せめて恋人同士なんだから和姦魔にしろよ。


いやそれもダメだろ。俺たちはいたって健全なんだぞ!?


さっきの非にならない心労で、無駄にライフが削られながらも、ようやく安全地帯に戻ってくる。


「ほい、持ってきたよ」


2段弁当を両手で包み込み、まるで超高級なツボを持つように大事に運んで、丁度二人の間に置く。


このままでは食べづらいので、向こうにある古びた机とベンチを持ってきて、祥子と向かい合って座れる形にする。


ポケットに忍ばせておいたアルコールの除菌シートで机を拭き、昼飯の支度を整えた。


「無事だったの?」


本当に俺を心配してくれたのだろう、心配そうな表情で俺を見上げてくる天使がそこにいた。


「うん、全然。よゆーよゆー」


彼女のその一言だけで、何だかライフ全回復どころか全ステータス300%UP+状態異常無効くらいの強化を受けた気がする。なるほど、これが異世界無双かぁ。


「じゃあ無事にお弁当持って帰ってきたから……結婚するの?」


「ぐはっ!?」


こてっと小首を傾げながら、とんでもなく健気に爆弾発言を飛ばされて、まるで即死攻撃を受けたかのように膝から崩れ落ちた。なるほど、即死攻撃は防げないのか……。



あー、はい。けっこんします。


というか、まだやっていなかったのか!


おい、誰かここに婚姻届と親の印鑑と親持ってこい!



俺の方も、祥子の可愛い姿に耐えるための壁を用意しているはずなのに、そのボロッちい壁に弾道ミサイルがポンポン打ち込まれてくるせいでオーバーキルどころではない。


この可愛さは文部科学省に進言してとっとと人間国宝扱いにしないとダメだな……。と思ったところで、再び立ち上がる。


「さて、茶番はさておき、いい加減元に戻れ」


「え~、楽しかったのに~~」


「そりゃお前は楽しいだろうけどさぁ!!


こっちはお前の挙動にいちいち死んだり生き返ったりで大変なんだよ!!」


まったく、勘弁してほしいものだ。


真昼間の学校で全力で興奮するのなんて、これっきりにしてほしい。

なんか書いてたら1万字超えそうだったので、無理やり半分に分けました。


集中すれば書けるのに、集中できない雑魚なんですよねぇ……。


キチンと、7/15までにもう一個載せます。


折角連日投稿の感覚を思い出したので、この感覚を忘れないようにしたいですね。


それでは、今回もありがとうございました!!

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