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その目覚めは幸せか否か

昨日見た世界と、今日目覚めてから見る世界は、同じようでほんの少しだけ変わっていたりする。


それが幸せなのか、不幸せになってしまうのかは別として、それでも昨日感じた幸せと今日感じた幸せが変わってないといいな……。


そう思っていた時代が、僕にもありました。

俺は結局ほとんど眠れないままに、翌朝の太陽を拝むことになってしまった。


眠ろう、眠ろうと目を瞑る度に、1メートルもない程の距離から聞こえてくる祥子の小さな寝息や、整髪料なんかの甘ったるい良い匂いがしてきて、俺の愚息くんが一晩中とんでもないことになり続けていたからなのは言うまでもない。


途中で寝返りを打ってきて祥子と身体を向かい合わせた時なんかは、それはもう大変だった。


寝返りを打つ姿もそのあどけない寝顔もカワイイとか、コイツチート使ってんのか?ってくらいには天使過ぎて、俺は寝ているはずの祥子にすらも視線を合わせることが出来なかった。



深夜テンションで調子に乗ってその髪を触ってみれば、『んぅ……。』と心底気持ちよさそうに声を出してくれるしその寝顔も少し緩んだように見えるしでもうヤバい。


どんくらいヤバいかというと、既に祥子の可愛さに射貫かれたはずの心臓に、容赦ない北斗百裂拳が飛んでくるくらいにはヤバい。俺はもう死んでいた……?


このままだと本当に変な気を起こしかねなかったので、俺だけ1階のリビングで寝てやろうかとも思ったが、

翌朝起きてきた母親に何故リビングで寝ていたのかを説明するのも大変だし、


何より祥子が目覚めた瞬間に真横に俺が居ないことに気づいてしょんぼりしてしまうのが手に取るように分かったのでこの案は却下された。


どうしてこの女は俺が喜ぶことしか出来ないのだろうか。本当に不思議である。


徹夜を覚悟した4時くらいからは、『息子はずっと立たせ続けると一周回って痛い』という一生役に立たなそうな新事実を発見したり、


どうやったら目の前の恋人にもっと好きになってもらえるかを必死に考えたりして、これはこれで人生で初めての経験をすることが出来たと思うので、無理やり納得させる。二度目はいらん。



まあ、そんなこんながあって、もう時刻は5時半過ぎだ。


そろそろ母親がお弁当を作るために起きる頃合いだな、それで俺の部屋を覗かれたらヤバいなー。


言い訳できないじゃん?




そんなことを考えた刹那、噂をすれば影と言わんばかりに母親と思しき足音が目の前を通り過ぎていくのを、俺は自然と息を殺して見送った。



あっぶねええええええっっ!!!


勿論俺たちが付き合っていることはお互いの両親も知ってはいるが、こんな風に添い寝をしていれば『あいつら、大人の階段を上りやがって……。』と、余計な誤解を与えることになりかねない。


むしろ夕飯が赤飯になってしまうまである。そんなところに気をまわさんでいい!!


『違う!!俺たちはまだやってない!!』なんて、何が悲しくて俺のヘタレアピールをしなくちゃならんのか。


うん、やっぱり俺ってヘタレだよな。



とりあえずこの状況のままでいると俺の心臓に悪いことが確定しているので、隣の元凶を起こして、元の部屋に返してやる。


「おいテメエ、朝だぞ、起きろ」


身体を揺すって起こそうとするが、返事がない。ただのしかばねのようだ。


あー、そういえばコイツ寝癖が悪いんだったか。


今ようやっと思い出したぞ。


思い出したついでに、もう一つやってみたかったことを思い出した。




お目覚めのキスがやってみたい。



俺はどうみても王子様タイプではないが、それでも漫画やラノベの主人公なんかがヒロインにお目覚めのキスをやっているのを見て、人生で一度くらいはこういうのやってみたいな~~と前から思っていた。


そんなことを久しぶりに思い出した矢先に、なんと絶好のチャンスが舞い込んできたのだろうか。


これはもう実行に移すしかあるまい。


やるぞ、やるぞっ!!


未だにキスも交わせていないチキン野郎の俺だが、流石に起きている祥子とキスするよりも難易度は低い……はずだ。


その一歩を踏み出すための予行演習さえ出来なくてどうするよ、俺!



キスするぞと決めた瞬間から朝早くからもの凄く鼓動は早くなっているが、まあそれだけ俺の方も覚悟がいるということだろう。


いつも俺を祥子がリードしてくれるような毎日だが、たまには俺がリードする日があったっていいじゃない。恋人だもの みつを   みつをって誰だよ幻のライバルか何か?


さあするぞと意気込んだはいいが、何か肝心なことを忘れている気がする。


確か、目覚めのキス羨ましいなぁと思ってネットで「目覚めのキス」と検索したときに一緒に出てきたサジェストになんかあったような気がするなぁ……。



あーーー思い出した。


そしてそれと同時に気づいた。



俺の口、臭くね?


人間というものは寝起きが最も口臭がキツくなる時間帯らしく、知恵袋でもこのカテゴリの質問が載っていたのを『アホやな~~』と思いながら前に見た記憶がある。


つまり、この状態で俺が目覚めのキスをしたところでそれは絶対に王子様のキスではないのだ。なんなら寝たきり状態の白雪姫に止めを刺してしまうまである。



ふう、やる前に気づいてよかった。


得体のしれない罪悪感に押されながらも、俺はひとまず1階の洗面所へと向かった。



洗面所へ行き、これ以上ない程しっかりとうがいをしてさあ部屋に戻ろうとしたところで、俺の背後から既に起きていた母親の声が聞こえてくる。


「おはよう、もう朝ご飯出来てるからね~」


母親がそう言いながら洗濯物を持って二階に上がろうとするのを、俺は洗面所の鏡越しに見つめていた。


……。



!?



やっべえええええ目覚めのキスどころじゃないぞこれ!



両親の寝室と俺の部屋は隣り合っていて、ベランダ伝いに渡ることも出来るために、母親が洗濯物を干すためにベランダに出てふと俺の部屋の方を見ると、そこには俺ではなくて祥子の眠る姿が映し出されてしまうのだ。



なんとしてもそれは阻止せねばならない!!


俺はダッシュで二階の自室に戻ろうとするが、洗濯物のカゴが邪魔で母親を追い抜けない。


なんとか母親を追い抜いてダッシュで自室のドアを閉め、母親が洗濯物を干す準備をしている間に、俺は素早く方策を練る。



こうなった以上お目覚めのキスなんて甘いことを考えている場合ではない。


残念ながら、俺の今朝は突如として俺の(社会的な)生き残りをかけた戦場へと化してしまった。


寝起きで適当に蹴っ飛ばした掛け布団を未だ寝ている祥子に被せて、俺もその掛け布団に潜り込む。


近くでスゴクいい感触がするような気もするが、とりあえず今はこの危機を脱する方が優先だ。


「あれ、一回起きたのにまた寝るの?」


「うん、直ぐに起きるけど。


やっぱり布団は気持ちいいからね~~」


ベランダで洗濯物を干している最中の母親と、何ら変哲のない会話を交わす。


頭に冷や汗をかいている今の俺がこんなことを言ってもまず間違いなく説得力は皆無だが、幸いにも母親がこっちを向いてくることはなく、俺はこの危機をなんとか乗り越えることが出来た。


早く起きなさいよ~~という母親の声を聞きながらその足音が遠ざかったのを確認して、ようやく俺はホッと一息つくことが出来た。


「ああ~~朝から嫌な汗かいたわ」


思わず一人ごちる。


「一体誰のせいなんだろうね?」


俺の心意を代弁してくれるように、隣から声が聞こえる。


ほんとだよ、マジで勘弁してくれ……。



ん?


何かおかしいぞ?


これじゃあまるで祥子が起きているみたいじゃないか、HAHAHA。


チラリと隣を見る。


そこには、口を少し開けて眠たそうにしながらも、にひひ……。と無邪気に笑う恋人の姿があった。


「え?お前いつから起きてたの?」


「なんか、義明が突然私の隣に忍び寄って、綾乃さんと会話してた時。


ちなみに、私はその様子を『おお、朝起きたら義明に抱きしめられてるとか幸せだなぁ~~』と思いながら見てたよっ!」


なるほど、寝起きはいつもよりも素直に喋ってくれるのか。


また新しい魅力を発見したみたいで嬉しくなる。こんな姿もかわいい。


……じゃなくて!!!



「いや、『見てたよっ!』じゃなくてな?


どうみても緊迫した場面だったよな今?」


「うん、必死でマジウケたwwww」


「いや、『マジウケたwwww』じゃなくてな?


あの、こっちは真面目な話をしたいんですけどね?」


というかこうなったのはそもそもお前が元凶だろうが何わろてんねん。


いや笑ってる顔もカワイイからそれはそれでいいんだけど今はそういうお話をしている場合ではない。



「え?真面目な話する必要なくない?



だって、私昨日母親に『今日は義明の部屋で寝てくるから。襲われたらそん時に考える~~』って言ったよ?」



え!?


添い寝ってそんな軽いノリで親に宣言することだっけ!?



平然と爆弾発言をカミングアウトしてきた祥子の前に、俺は呆然と立ち尽くすことしか出来ない。


「え?んじゃあ俺がお前を隠そうと必死に頑張ったこの数十分はなんだったの?」


「まあ、母親伝いに綾乃さんにも伝わってるだろうから、意味ないだろうねえ」


ですよねー。


「そっか、じゃあ俺の数十分返して?」


「えー、ちょっと四次元の世界に行くのは厳しいな~~


というわけで、それでは、また後でっ!!」


「あっ、おい待てや時間泥棒!」


待てと言われて本当に待つ人はいないわけで、俺の制止もむなしく、祥子は再び窓から彼女の自室に帰っていった。



再び呆然としながら、とりあえず朝飯を食べようかと一階に降りたところで、台所の母親と目が合う。


全てを察したような母親の笑みと、テーブルに何故か用意されている赤飯を見ながら、


俺はアイツを地獄の底まで追いかけて絶対にぶっ飛ばすと固く決意した。

こんな感じの短編が、延々と続くと思っていただければいいかと思います。


一応時間列順になってはいますが、どこから読んでも楽しんでいただけるように頑張るつもりです。


世間では七夕を迎えて、短冊にお願い事を書くのが習慣となっていますね!


この小説も、なんとかして1年くらい持たせてみたいなぁ……



次回の更新は7/9を予定しています。


それでは、今回もありがとうございました!!

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