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困らないが、困る

一ヶ月が過ぎ、季節は6月になった。学年が変わったことで顔ぶれも一変し、少しぎこちなかったクラスの雰囲気もある程度固まりを見せ始め、梅雨の季節に先立つように穏やかで気怠げな空気が漂い始める頃だと思う。


事実去年のクラスはそんな感じだったし、「知らない人のコミュニティに聞き耳を立てよう」なんて変人(というか変質者?)はいないだろうから、そうなって然るべきなのだ、と俺は考えていたのだけれど。


残念ながら今のこの状況を見た限り、その認識は改めないといけないのかもしれない。


つまりどういうことかと言えば、俺たちの今のクラスは普通でないということだ。


というのも、まだこんな季節だというのに、ある二人のやりとりをクラス全員が目を光らせて見守っているからだ。それはもう、その一部始終を全部脳裏に焼き付けようという勢いで。一打サヨナラの場面でもそんなにギラギラした目しねぇだろお前ら。



そんな状況を見て、俺が『はー、ウチのクラスすげーなー』とあたかも他人事のような感想を抱いてしまうのは、ある種必然のことなのだろうと思う。


「なー義明、いつの間に私達ってクラスの人気者になったんだ?」


「いや、知らんが」



――そりゃ、俺たち見る側じゃなくて当事者側だし。




どうしてこうなったかと言えば、それはまあごく自然に、としか答えようがないのだが、この一か月の間に、『あの転校生とその彼氏の夫婦漫才が面白い』という評判がクラス中に広まり、気づけばこんな風にクラス全員に見られるまでになっていた。


俺がその噂を聞いた時は、


「夫婦漫才の『夫婦』の部分って、『めおと』と呼ぶのか『ふうふ』と呼ぶか分かんねえよな」


みたいな謎のくだりでクラスメイト達が盛り上がってたのをなんとなしに覚えている。どっちでも良いだろ、なんて水を差す一言は禁句なので黙っておくことにした。


最初の頃は俺たちに気づかれないようにとコッソリこちらを覗き見るのが数人いたくらいだったが、ある時を境に開き直って堂々と、まるでお笑いステージの観客のようにこちらの様子を固唾をのんで見守るようにスタイルチェンジされていた。


ここまで開き直られるといっそすがすがしいので、まあ、放置しとくか……と適当に考えていたところ、俺たちからOKが出たと認識されたのか、その辺りから俺たちの評判は輪をかけて広まっていった。


中には、噂を真に受けて「あの……お二人の漫才がM-1出られるくらいに面白いって聞いたんですけど本当ですか?」と聞いてくる1年生の女の子まで出てきた。いくら噂とはいえねじ曲がり過ぎだろ。


「いや、俺たちは漫才してるわけじゃないし、そもそも見世物じゃないんだけどね……」


と軽くあしらって女の子が小走りに戻っていくのをぼんやりと見ながら、お笑い好きな女の子とか絶対モテるなぁ……と考えていたところ、祥子から複雑な視線を向けられてしまった。


「じーー」


「視線を擬音で表現するな。んで、どうしたの?」


「いやぁ、ね。ちょっと感動しちゃった」


「え、今のどこに感動要素があった?」


「だって……だって……


女の子から話しかけられるとあんなにもキョドっていた義明が、こんなにも立派に女の子と喋れるようになって……うっ……。」


「褒めながら罵倒するとか、お前また新しいスキル覚えたな」


一瞬で分かるウソ泣きを前に、真面目に反応しようとした俺がバカだったと軽く反省する。


というかウソ泣き下手くそ過ぎるだろお前。『お前のウソ泣きって、笑っているようにしか見えないよな』と中3の頃に祥吾からバカにされたことがあったが、今のお前も負けず劣らず下手くそだと思うぞ。


ちなみに、その言葉が妙に悔しくてその後ウソ泣きの猛練習をした一週間は俺の人生で最も無駄な一週間になりました。受験期に俺は何をしていたんだろうな。ふぁっっきゅー。


「そもそも、お前みたいな美人……と一緒に喋ってればそりゃあ女の子に対する耐性も付くだろ」


「今ちょっと美人のところで言い淀んだよな?おい?」


俺の言葉に反応して、祥子が人差し指で机の角をつついている。何でだよ俺の頬をつつけよ、とツッコミたかったが、どう転んでも甘酸っぱい、有り体に言えばリア充が爆発する展開になるのでやめておいた。


最近になって、むしろリア充はお互いの愛の力()で爆発しても生き残れるのではないのだろうかという新説が俺の中で流行り始めている。俺これあると思うんだよなぁ。


そしてその近くにいた非リアのみが爆発に巻き込まれて死ぬ。その恨みで非リアのリア充妬みが更に加速する。かくして第三次大戦は訪れた……



「一瞬『本当に美人か?』って考えたけど、確かにお前中身を隠せば美人だよな」


「え、中身!?


鼻を隠せばーーとか、口を隠せばーーとかじゃなくて、中身!?」


「当たり前だろお前今までの発言振り返ってみろ」


『セフレは作ってもいいけど浮気はするな事件』や、


『謎のヒーローインタビュー事件』や、


『何かと話題になった2階から女の子が落ちてくる例の漫画は再現可能なのか事件』など、


俺たちのこの一か月の会話を思い返すだけでもパワーワードが揃っている。もしカードゲームに収録されたら全部5コスト以上のパワーカードだらけになるに違いない。なんだこの事故デッキ。


いや、待て。俺が針小棒大に言っているだけで、実際は大したことじゃなかったのかもしれん。ここは一つ、それぞれを冷静に振り返ってみることにしよう。

旅行しながら毎日投稿は無理がありましたすみません!!!


あと3日くらいは更新が不定期になると思います、ごめんなさい……

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