無自覚な誘惑-2
今日の最後の授業は数学だった。
ウチの高校は1学年に10クラスもあるせいで、同じ科目でも担当する先生がクラスによって違い、数学は1学年につき3人の教師が見ることになっている。
そして生徒の学年が上がるにつれて教師陣の担当する学年も上がるために、部活などに入らない限りは高校生活で見かける先生がほぼ固定化されているらしい。
今教壇に立っている先生は、生徒の中でも割と評判がよい新手の男性教師だ。去年は俺たちと同じくこの学校に赴任した初年度ということもあって、5月辺りにやたらと校舎をウロウロしながら、近くにいた上級生なんかに『ゴメン、お手洗いの場所分かる?』とお上品に聞いてた様子がやけに記憶に残っている。『トイレ』じゃなくて『お手洗い』って聞いていたとこらへんが個人的にはめっちゃ評価したい。
その甘いルックスと人当たりの良さから放たれるオーラはクラスの雰囲気すらも癒してしまうことが多く、今回もその例に漏れずクラスは和やかなムードに包まれている一歩で、全然和やかでない難関な授業が繰り広げられていた。はぁ~~へぇ~~そうなんか、なるほど、分からん。
黒板に書いてある謎の現象Xについていつまで考えても無駄だと悟ったので、GWの反省会を脳内で開催する。
まず議題に上げるべきは……目の前の祥子に対していつまで俺は童貞じみた反応を続けているのか、ということか。
結局祥子は抱けずじまいに終わったわけなんだが、一緒にテレビゲームをして遊んでいるときに服の合間からチラリと見えた谷間や、疲れた~~と言いながらベッドに倒れ込んだ時にチラリと見える白のキャミソールなんかに何度もドギマギしてしまい、思わず何度も襲いそうになってしまった。
どうしても我慢できなくて『口だけなら……』とお願いすると、『えー、私が発情しすぎてそれだけじゃ絶対に終わんないからパス』と小悪魔めいた笑みを浮かべながら上目づかいで断ってきた。あいつは俺をどんだけ弄べば気が済むんだろうか。
もしかして俺は未だに童貞なのではないか?俺が経験したはずのあの夜は実は夢だったのではないか?などと錯覚しそうになってしまうくらいには、まだまだ俺の祥子に対する熱というのは冷めそうになかった。
いや、俺は本当に童貞のままなのかもしれない。
よし、数学の復習にもなるし、ここは一つ背理法で証明しよう。
仮に俺が童貞でないと仮定すると、ほぼ毎日一緒にいたはずの祥子にいつまでも興奮しているのはおかしい。いや、もし仮にそれすらもおかしくなかったとしても、未だに祥子が持つ魅力に毎日のようにドキドキして、まるで童貞のようにタジタジになってしまうのはやっぱりおかしい。よってここに矛盾が生じてしまう。
つまり、これは仮定が間違っているので、背理法により、俺が童貞であることは証明された。Q.E.D.
成程、やっぱり俺は童貞だったのか……
という冗談はさておいて、毎日会っているはずの祥子が飽きるどころかさらに魅力を増しているのは間違いなさそうだった。俺の色眼鏡が日に日に酷くなっているのも一因ではあるが、それだけじゃないはずだ。俺にもっと好きになってもらう為に、きっと俺の知らないところで努力を重ねているんだろう。
ちょっとくらい、その努力を褒めてやるか。「はいはい、お熱いことで」と本人から軽くあしらわれそうな気がするのがなんだか癪だけど。なんで自分への褒め言葉を受け流しているんだこの女は???
……なんて冗談にして流そうとでもしないと、突然飛び出してきた祥子の尊さにやられてしまいそうだった。あぁ^〜カワえええんじゃあ^〜
「潮、何笑ってるんだ?」
「いえ、先ほど(まで俺が脳内で考えていた祥子)の(可愛さヤバすぎる)問題が解けて嬉しかっただけです」
嘘は言っていない。真実も言ってないけど。
ようやく夏休みに入ったので、明日から本気出します。
次回は8/9の午後3時に投稿します!
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それでは今回も、ありがとうございました!!