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GW直前の日-5

「いや違うんだよ!確かに私は義明に土下座しなきゃいけないかもしれないけど、違うんだっ!!」


「残念だが、人はそれを支離滅裂な思考と言うんだ」


ツッコミどころしかないその発言に対して、ボケ殺しをするかのように丁寧に事実を述べていく。両手をわちゃわちゃと動かして感情を上手く言葉にしようと焦っているのが見ていて微笑ましい。


というかあれ元ネタの画像統合失調症のやつなんだな。便乗するには元ネタをキチンと理解しておかないと原理主義の人たちに怒られちゃうから気を付けよう。



「そういえばさー、」


「ん、なんだ?」


「やっぱり昨日の話に戻るんだけど。


そもそも、私を抱くって義明的には大丈夫だったの?


私だって多少の不安はあったんだから、義明的にはもっと不安だったんじゃないかと……ほら、性別の問題とか……ね?」


口調の変化に気づいて隣を見やると、祥子が困ったように眉を八の字に曲げていた。昔の俺が『祥吾の表情の中で最も殴りたい顔』と称した面影はほんの少ししか残っておらず、改めてほぼ別の人間に変わってしまったんだなぁと強く実感する。


祥子の状態というのは大きく分けて『ふざけた顔をしながらふざけてる時(俺に迷惑が掛からない時はかわいい)』と


『真面目な顔をしながらふざけてる時(時々ニヤケを堪えきれずにプッと吹き出してしまうのが微笑ましい)』と


『真面目な顔をして真面目な話をする時(普段とは違ったしおらしい姿もいとをかしではあるが、この時は大体の場合ガチ凹みしているので励まして元気になって欲しい)』の3種類あるわけなんだが、


俺の経験から言うと今の表情は3番目のモードにしか見えないので、ここは一つ彼氏兼親友として悩みに乗ってあげることにしたい。


したいんだが。



「俺に襲われるの期待して勝手に一人でシコって勝手に寝てたやつが何言ってんだ?」


「おおん、それは言わんといて……」


「言わない訳ないんだよなぁ……」


俺が無理やり祥子を誘ったとかならともかく、昨日の乱れる様子を見ていた限りではとても悩んでいたようには見えなかったし、最初にこの話を振ったのは祥子なのだ。


ノリノリで俺の要求に応えてくれていたというのに、事後になってからそんな事を聞いてどうするんだろうか。今になって急に恥ずかしくなってきたのだろうか。もしそうだとしたら可愛すぎる生き物が誕生してしまうのでそうであってほしい。


ヒートアップさせてしまったのは俺も悪いのかもしれないが、決定的なあの寝言のせいで本番が始まってしまったのだから、先にトリガーを引いたのは祥子のはずだ。というか思い出させんなまた立ってきちゃうだろ!!


あの寝言のせいで俺の人生が狂ったといっても過言ではないのだ。どうしてそのターニングポイントを指摘しないことがあろうか、いや、指摘しないわけがない。(反語)


なお、祥子の身体はショタの子が性に目覚める系の漫画に出てくるお姉さんくらいには魅力的なので、昨夜の件に関してはむしろ俺の方が昨夜は美味しく頂きました、ご馳走様でしたと祥子に感謝しなきゃいけないまである。オッサンかよ。



そして、それだけじゃない。


今までの2か月半のことを振り返ってみたとき、俺が常々考えてしまうことがあった。



それは、今言うべきだと思った。



「それにな、」


それは、何となく、何となくではあるけれど。


俺はずっと前から積み重ねてきた素直な気持ちを、思わず口にせずにはいられなかった。


「お前は決して逃げなかったじゃねえか。


女になったことが、今までの自分でいられなくなるってことがどんなに辛くて、悲しくて、もがき苦しんでいたのかは分からないけど、それでもやっぱり逃げなかったじゃねえか。諦めなかったじゃねえか。


俺には出来ないなと思ったし、その勇気に俺も応えなきゃって思ったよ、あの時は。」


想いを口に出すだけでも自己満足に似た快感が走る。「好きだよ」と一言で言ってしまうよりも、その愛がもっと伝わる気がした。


「に、逃げなかったって言われても……友達には心配ばっかりかけて、学校にも行けなくて、お母さんとも喋れなかった私はどこをとっても逃げ惑うばっかりだったじゃん?


百歩譲って私が頑張ったとしても、それは助けてくれた義明のおかげで……」


苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、照れるように、それでいて逃げるように祥子は細々と口から自嘲をこぼす。


はぁ~あ。分かってねぇなお前は。


だったら教えてやるよ。


当時のお前がどれだけ凄くて、格好よかったのかって。


「その前からだろ」


逃げ道を塞ぐように、まるで苛立ちをぶつけるような強い口調で、次々になだれ込んでくる感情をそのまま叩きつける。


「全てを失った人生に絶望して、俺に会うのだって辛かったはずなんだよ。


それに、俺の行動だって今考えるとアホかっ!って思うよ。当時の俺、お前の母親よりもお前の近くにいる存在だって本気で思い込んでたんだから。んな訳ねーじゃん。


当たり前だよな、どんなに俺とお前が仲良しだったって、俺がお前の家族の、母親の優しい温もりなんかに勝てるわけがないんだから。


俺との関わりも、昔の友達も、過去の記憶も何もかも全て捨てて転校して、ここから逃げ出して全てをやり直すことになったとしてもおかしくなかっただろ。」


「……。」


その表情はどんな風に変わっていたのか、確かめる勇気は俺にはなかった。俺の身体は、あるいは俺の思考すらも心の奥底から昂り続けてくる感情に憑りつかれたように支配されていて、まるで歩き方を忘れたロボットのように動けない。考えられない。


俺たちに吹いてくる湿気のこもったぬるい向かい風だけが、熱くなった俺の身体を冷ましてくれる唯一の味方だった。


「それでもな、お前は俺の身勝手なワガママに応えてくれた。俺を信じて、全てを曝け出してくれた。


そんな勇気、俺には持てないと思ったし、何より親友というよりも一人の人間として思ったよ。コイツすげえなって。


そしたらなんかさ、その時に直感的に思ったんだよな。


お前は幸せになるべきだって。こんなに強い人間が、こんなに人を信じられる人間が、幸せでない道を歩んじゃいけないって。」


「……。」


なんだかとてつもなく恥ずかしいことを言っているような気がして、途中からその視線を祥子からずらしてしまう。視線を逸らした時にチラリと見えた横顔は、遠くの夕日と綺麗に重なって顔が熱くなったかのように赤みがかっていた。それが夕陽のせいじゃなかったらいいなとふと思った。



そうしてずっとため込んできた想いが、少しづつ言葉となって零れていく。


「でもお前は凄く面倒な性格してるから、お前をよく知らないやつだったらきっとその真意まで分かってくれないかもしれないから。


だったらなんか、お前を幸せにする、幸せに出来る相手は俺しかいねえのかなって……考えちゃって。


それがそのうち、『俺しかいねえ』じゃなくて、『俺だったらいいな』って変わっていって……その……」


顔の熱暴走に耐えられずに、口から飛び出した思いがつっかえて止まった。


あぁもう、なんでこんな回りくどい言い方で愛を伝えてるんだ俺は。


『好きだーー!』って直球で言うよりも何倍も恥ずかしいぞ、これ。いや実際にやったことはないけど、絶対にそれよりも恥ずかしい自信がある。


まあそれでも、今言ったことは嘘じゃないし、後悔なんて微塵もない。


もし仮にこれが自分のワガママだったとしても、祥子には知っていて欲しかったから。


俺がどれだけ、お前を好きかってこと。


あーでもゴメンこれをネタにされたら流石にちょっと凹むから微塵もないは言い過ぎたかな――と脳内で無駄な予防線を張り始めた時、祥子が何かに耐えられなくなるように膝から崩れ落ちた。


「ちょ、ちょっと待って……無理……尊すぎ……私好きすぎかよ……


待って、これ一生頬が緩みっぱなしになって戻らない気がするんだけど……なにこれ……」



ネタにするどころか、彼氏に尊みを感じて何故か感動していた。


俺の方も何気ない祥子の仕草に感動して『なんだこの可愛い生き物は……』と嬉しい悲鳴を上げることが稀によくあるが、いざ実際に自分が受け身になるとどういうリアクションを取ればいいのかよく分からなくて少し混乱してしまい、口を閉ざしてしまった。それが間違いだった。



「あーもーー!!これ以上私を義明に依存させてどうする気なの!?何でもしてあげたくなっちゃうじゃん!!


他人に依存しすぎるのは良くないって義明がいつも言ってるのにどうしてくれんのさ!?


え、何!?結婚してほしいの!?むしろこっちからお願いするわ!


またエッチしたいの!?どーぞどーぞ!昨日の処女失った痛みなんか今ので消え去ったわ!!


孕ませたいの!?あーもう余裕ですよそんなん!あーでもそれだと義明独占できなくなっちゃうからやっぱパス!!」


「っ!!??」


これまでに見たことのない程のハイテンションで、これ以上ない程愚直に飛んできた素直な好意に、さっきの祥子の再現をするかのように俺も膝から崩れ落ちていく。ああ、耳が幸せ過ぎる……。


顔を両手で塞いでいるせいでその表情までは読み取れないが、真っ赤になっている耳たぶやデレっデレに緩み切った頬が隠せてないおかげで、祥子が今どれだけ照れて嬉しそうにしているのかは想像に難くない。なんだこの生き物可愛すぎか?


今の祥子は間違いなく俺史上で1,2を争うくらいに可愛い顔をしているに違いない。もう、溢れんばかりに出てくる幸せに耐えきれずに全身で喜んじゃってる今の様子とかありえんカワイイ。可愛いとか美しいとか華麗だとか、その程度では今の祥子の表情の素晴らしさを伝えるには足りな過ぎるのではやく女子高生は『尊い』の上位互換の言葉を創造しろ。


どうしよう……その手をどけて、その照れ顔をじーっとガン見したいんですが。


めっちゃ見たいが、その手を解く勇気までは何故だか持てなかった。あんなに痛い言葉を喋ったんだからそのくらいもうなんて事ないはずなのに、それでも顔を動かすので精一杯だった俺の身体がちょっと情けない。


なんでだろう、もはや「祥子」という漢字すらも何故か可愛く見えてきた。ネ←ここなんか右側の羊を強調するために一歩引いている感じが夫を立てるために一歩身を引く良妻のイメージと駄々被りじゃん最高かよ。どうした俺もなんかぶっ壊れてんぞ。


もし人への好意を測れるスカウターみたいなものがあったとしたら、間違って祥子を見た瞬間に数値がバグって一瞬で使い物にならなくなってしまい挙句の果てに『この装置を通して恋人を見ないでください』と注意書きが付け加えられてしまうに違いなかった。



あと、ちなみに。


たまたまその様子を見られていた周りの奥様たちから『若いっていいわねぇ~』と優しめに揶揄されて恥ずすぎて死にそうになりましたが、『ええ、若いって最高です!!』とこれまた謎ハイテンションで口応えする祥子のせいで俺のメンタルだけでなく腹筋も死にました。


隣で祥子が笑っているだけで俺も幸せになるとか、だいぶん現金な男に成り下がったなぁ……と嬉しく思いながら、俺はその手をとらずにはいられなかった。

寝ぼけた頭でこれを思いついたとき本当に甘すぎて悶え死ぬかと思ったんで、その再現を目指して私の出来る限りで甘くしてみました。


評価やブクマや感想など、お待ちしております。今回かなり頑張ったのですが、それでも甘さが足りねぇという方はご連絡ください。


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