GW直前の日-3
とりあえず、今の俺が言いたいことは一つだけだ。
誰かあの女を止めろ。
「おいテメエぶち〇すぞ何勝手に――」
「勝手に、なに?」
暴露してんだ、という言葉を続けようとして、直前で踏みとどまる。
危なっ!それ言っちゃったら俺たちが本当にヤっちゃったことがバレるじゃねーかっ!
助かった、ここで俺の冷静さが活きた。
ふう。
またしても俺が疲れる羽目になるのか……。
アイツは後でしばき倒すとして、今は何とかこの場を乗り切らなければならない。
「何勝手に、妄想上の俺と一線超えてんだ?」
「え!?嘘!?あれ義明の幻影だったの!?」
「どこの時間軸の話してんだお前?もしかしてタイムリープしてね?」
「え、私がタイムリープ使えるってマジ!?ちょっくら未来に飛んで結婚してくるわ」
「あーはいはい、いってらっしゃい。というかそれ俺に拒否権ないな?
知ってるか?結婚って、相互の合意がないとできないんだぞ?」
周囲に向けて、まだ祥子とは一線超えてませんよアピールをしながら、ヒヤヒヤの綱渡りを続けていく。
今頃俺の脳内では「んひぃ!!」や「ひぎゃあ!!」といった悲鳴が上がっていることだろう。なんで叫び声が全部凌辱系なんですかね……。
「えー、義明だったら死ぬほどため息をついた後でなんだかんだOKしてくれそうな気がするけどなー」
「すまんがそんなプロポーズの受け方は男として死ぬほど恥ずかしいからやめろ。
というかいい加減その話題から離れ……ろ……。」
その言葉をなんとか口にし終えたところで、周りのみんなが一切の口を閉ざしてこちらを向いていたことにようやく気付いた。ニヤニヤ笑いが堪え切れない者、何故か尊さを感じて身体を震わせながら机に突っ伏している者、携帯を触って無表情を貫こうとするも顔の火照りが隠しきれない者……etc.
多種多様な反応を見せてくれてはいるが、どうみても大半の視線が生暖かいものと化していたのは有難いやら恥ずかしいやらでなんともいたたまれない気持ちになってくる。
うーん、これ詰んだな。
傷口を塞ごうとして、間違えて傷口に塩を塗っちゃったパターンだなこれは。
こういう時の最善策とは何か。それは勿論ただ一つ。
三十六計逃げるに如かず!
「お前後でしばき倒すからな覚えとけよっ!!」
まるで悪の手下みたいな小物感あふれる台詞を吐いて、俺は生暖かい視線に囲まれながら教室を出た。
ちなみに、俺が教室を出る時「学校で押し倒すなんて大胆だねぇ」という祥子の言葉が聞こえたせいで、その日の昼休みに人気のない階段から女の絶叫が響いたことは言うまでもない。
俺は、俺はどこで道を間違えたんだ……。
何が悲しくて、昨日抱いた女の関節を締め上げなきゃならんのだ……。




