事の始まり
恋人というのは、目と目で通じ合って軽く笑い合えるような儚い関係だと思っていたのに。
どうしてコイツは俺の常識をいちいちぶっ壊していかないと気が済まないのだろうか。
二人で並んで歩く学校からの帰り道の途中で、ふと祥子がこんな事を言いだした。
「最近さー、告白の時のとこを思い出してうおおぉ!!って悶えるのにハマっててー」
「俺にピンポイントで刺さるような嫌がらせはやめろ」
嬉しそうに話す祥子の隣で、俺は思わず顔を強張らせてしまう。
本当に付き合い始めた頃は、こうして目の前の彼女と付き合えた喜びで告白したときのことなんて完全に忘れていたが、1週間くらい前に間違えてあの時の告白の一部始終をふと思い出してしまった。
一瞬で死にたくなった。
何が「これが俺の答えだ(キリッ」だよあああああああキツイ痛すぎるぅぅぅぅ!!!!
(参考資料:https://ncode.syosetu.com/n9506ed/26/)
自分でしたはずの行動があまりにも痛すぎて、思わずベッドの上で全力ローリングを決めてしまった。
もし俺が2Dアクションの世界にいたなら99にしたはずの残機が一瞬で消えて突然ゲームオーバーになってしまうに違いない。何そのクソゲー。
っていうくらいには個人的には痛い出来事だったので、あの告白は出来れば黒歴史にして触らないで欲しいんだけど、どうやら彼女さん的には素敵な出来事だったらしい。
まあその辺は祥子の趣味だから勝手にしてくれても良いのだが、とはいえ彼氏の黒歴史を引っ張り出して楽しむ彼女とか質が悪過ぎる。
だがしかし、ここで「俺の黒歴史だから思い出すのやめろ」なんてことを言ってしまうと、祥子はむしろノリノリになって一人芝居であの日の告白の再現をやろうとするような人物なので、その一言は言ってはならないのだ。
まああの時の祥子は俺史上に残るレベルで可愛かったので祥子側だけを再現してくれるならむしろやって欲しい、というのは秘密にしておく。
沈黙は金という言葉があるように、傷は触らずに治るのを待つのが正解なのだ。
「それでふと思ったことがあってさー」
ただし、自分が触らなくても他人が自分の傷を触ってくる場合は、その限りでない。
「ほら、告白ってやっぱりいいもんじゃん?」
「……。そうだな」
個人的にはとてもいいものではないが、世間一般的に言うならそうだろう。
俺も自分がやるまではそう思ってたし。
そこから話をどうつなげてくるのか、それが問題だ。
「んでさ、告白のシチュエーションって一杯あるじゃん?」
「そうだな」
これもまあ事実だ。だがしかし、なんでこんなことを言ってくるのだろう。
もしかして、『憧れのシチュエーションじゃなかった!もう一回やって!』とか言ってくるのだろうか。流石に勘弁してくれ。
と思ったが、やっぱりコイツは俺の斜め上をいかないと気が済まないらしい。
「ってことはさ、義明よりも私の方がベターな告白をすれば、それはつまり義明よりも私の方が好きだっていう証明になるじゃん?」
何かに期待をするように少しだけ上ずった声で、祥子がよくわかんないことを言ってきた。
???
前後の文脈がいつも通りおかしい。
確か、俺の住んでる世界だと、告白って基本的には一度きりの大勝負だと思うんだけどなぁ……。
もしかして異世界から来てしまったのかな?
いや、待て、ちょっと冷静に考えてみよう。
落ち着いて思考を巡らせれば何かが分かるかもしれない。
……。
告白は良いものだ→〇(個人的には×)
告白のシチュエーションというのは一杯ある→〇
俺よりも私の方がもっと好きだ→×
それを証明するために、既に付き合っているはずの俺に告白する→????
うーん、いつも通り意味が分からん。
いや、いつもであれば
「エロゲの喘ぎ声聞きまくって練習したら声優並みに上手くなったから、その理論で行くとスピードラーニングって効果あるんじゃね?」
のように、聞いた瞬間に一本背負いを決めたくなるようなネタをぶちかましてくるので、俺に被害がないだけこれはまだ優しい方かもしれん。俺の感覚マヒしすぎだろ。
「うーん、つまり俺に何をしてほしいんだ?」
意図が良く見えないので、素直に聞いてみることにする。
その言葉を待ってましたと言わんばかりに、祥子は突然両腕を組みながら俺の前に立ちふさがって、まるで不良がケンカを売るように鋭い目つきをしながら、
「私の告白に悶えてくれればいいんだよっ!!」
ビシッと鋭く言われてしまった。
本人的には「決まった……」と思ってるのかもしれないが、体格差的に見下ろす形になってるせいでどうしてもその仕草や表情が可愛く見えてしまう。
まるで小さな子が大人の真似をしようと精一杯の背伸びをしているみたいだ。あれ、こう書くとちょっと事案っぽいぞ。おまわりさん私です。
とはいえ、一つツッコミを入れておかねばならない。
そもそもの前提が成り立ってないからだ。
「付き合ってるはずの彼氏に告白するのか?」
「だってしょうがないじゃん。義明以外に好きになる男がいないんだから、私がやりたかったことを全部受け止めてもらうしかないでしょ?」
さも当然といった口調でそんな彼氏冥利に尽きることを不意打ちで言われると、少しドキッとしてしまう。
目の前の整然とした彼女の顔は普段と変わらないはずなのに、熱くなった身体ではその顔を素直に見つめることができなくて、なんだかそれが無性に悔しく感じてしまう。
うん、やっぱりそうだよな。
「うん、まあそれはそれとしてだな……」
もう一つ、成り立ってない前提がある。
俺は、少しだけ声を荒くして、言った。
「いや、俺の方が好きに決まってるんだが?」
「いやいやいやあり得ない」
即答で否定された。
は?いや、どう考えてもお前より俺の方が好きに決まってるんだが?
このアホ様には俺がどんだけこのアホに夢中になっているかが分かっていないらしい。
「ほう、じゃあここはどちらが互いをグッとさせられるような告白を出来るか、一つ勝負と行こうじゃないか」
「ほう、面白いな。その勝負、受けて立とうではないか」
仕方がない。俺の全身全霊をもって、その想いをコイツに教えてやるか……。
7月から始めようと思ったのにマニアワナカッタデス……。
少しでも「イイッ!」と思っていただければ、評価ptやブクマや感想等でその思いを伝えて頂けると死ぬほど嬉しいです。
次回の更新は7/3を予定しています。
それでは、お読みいただいて、ありがとうございました!!