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Pride

作者: 唯野 浩一

 彼女と一緒に暮らすようになってから、どのくらいになるだろう。

 彼女と初めて会ったのは、夕暮れの河原だった。

 何時も感情を表に出さない彼女の瞳と、たまたま目が合った。

 それから何故か私のアパートで一緒に暮らしている。



 彼女はロマンチストだと私は思う。

 彼女は雨の日には必ず散歩に出かけるのだ。

 そして全身びしょ濡れになって帰ってくる。

 はじめのうちは本当に驚いた。

 この前「どうしてこんな事をするの?」と訊いたけれど、彼女は背筋が真っ黒な瞳で私を見詰めるだけで何も言わなかった。

 だから私も諦めて、彼女がびしょ濡れで帰ってくると、一緒にお風呂に入ってやるのだ。

 もちろん二人とも裸である。

 彼女は嫌がるが、びしょ濡れで帰ってくる方が悪い。

 そんな訳で、私が彼女の背中を流してあげるのだ。

 私がボディソープで彼女の体を洗おうとすると、昔は逃げようと必死に抵抗したのだが、今はもう諦めたらしく大人しい。

 お風呂上がり、バスタオルで彼女の体を拭いてあげると、彼女は心底嫌そうな顔をする。

 私はそれが可笑しくて笑ってしまうのだが彼女には心外らしい。

 プライドが高いのだ。

 それに非常に無口である。

 これだけ長い間一緒に暮らしているが、彼女から私に話し掛けてきたのは両手の指で事足りてしまう程度しかない。

 嫌われているのかと思うほどだ。


 しかし最近、そんなプライドが高く無口な彼女が少しだけ変わった。

 それは空腹の時だ。

 何時もは一緒にご飯を食べるのだが、時々アルバイトや大学のサークルなどで帰りが遅くなる時がある。

 私の帰りを待たないで何か食べていればいいのに律儀に待っていてくれるのだ。

 それはすごくうれしいことである。

 私が鍵を開けて「遅くなってゴメン」と謝りながら部屋に入っていくと、彼女は大体ソファーに横になっていて、帰ってきた私を見上げるのである。

 初めは不貞腐れたような顔をしているのだが、すぐにお腹が空いたっていう顔になるのだ。

 そうすると、私は急いで食事の支度に取りかかる。

 そこでこの前少し実験をしてみた。

 ゆっくり帰ってきて食事の支度をせずに彼女の前のソファーに座って、彼女の顔をずっと観察しつづける。という実験だ。

 しばらく睨み合っていると、いつまでたっても食事の支度をしない私に痺れを切らして近寄ってきたのだ。

 そして、本当に面倒そうな顔で、

「にゃあ」

 と、可愛らしい声で私に向かって鳴いたのである。

 私は笑って「ゴメンね」と言って彼女の喉を撫でると、すぐに食事の支度を始めたのであった。

 


 これが、私の愛しい同居猫?との生活である。

ありがとうございました。

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