ep 9 前編
俺は数日間というほんの一瞬の任務期間を終えて壁の中の王都に戻ってきていた。ゴーシュと別れた後は後は誰とも会うことはなく、ただただ時間を浪費した。スラム街を眺めてそこでの暮らしを思い出したり、盗みを働き、逃げる少年を本気で殺そうとする大人たちを眺めたりしながら過ごした。
内側の街は相変わらず平和で、そこに住む人々も何も変わっていなかった。社会の平和のために自分自身の個性や生きる目的を排除してしまったかのような、変化を嫌ういつも通りの街。
しかしそんないつも通りの街に対して、学園寮の中は大きな変化があった。いつもはうるさくて仕方のない食堂が静まり返り、廊下ですれ違うニコニコと笑っていたクラスメイトの表情も沈みきっていた。部屋に戻り荷物を置くと普段は活発なルームメイトもその例に漏れず窓際の椅子にうな垂れるように座り外を眺めていた。
リューは俺に気づくと『レイ、無事だったんだ』とだけ呟き、すぐに窓の外に視線を戻した。その目は何も見ていないかのように虚ろだった。
俺が荷物を置き、『何があった?』と訊くとリューは向かいに座った俺の方を振り返り、しばらく沈黙した後、ポツリポツリと彼が体験した数日間のことを語り出した。




