ep 6
任務期間の2日目の昼、俺は目的の森に到着し、無事採集に成功していた。俺にとっては簡単な仕事だったが、生まれて初めて壁の外に出るような人にとってはこれだけでもかなりしんどいものだろう。
外と内側の大きな違いはそこに住む人間の性格と街の雰囲気、端的にいえば治安だ。外の街では強盗などは日常茶飯事で俺たちと同じくらいの歳の少女が身体を売って生活していることだって珍しくない。
そういったことを内側の人たちは知識として知っていても理解はできていない。一部の純粋な内側の大人たちは外側の生活の映像を見ただけで発狂するかもしれない。そんな大人たちに育てられた子供達が任務に向かっているのだ。薬草の採集ひとつ取っても精神的に厳しいものだろうと思う。
そんなことを考えつつ早々に目的を果たした俺は、隣町、カルロの小さな丘の頂上にあるシオンの墓に向かうことにした。
シオンは綺麗だった。白銀の髪も、俺と同じ灰色の瞳も、使う魔法も、そしてなにより美しかったのは彼女から発せられる言葉だった。シオンは俺を拾い育てながらいくつもの紛争や争いの仲介に入り、言葉の交渉だけでそれらを解決させていった。
『人は死なない方がいい、血を流すのは言葉が足りないからだ』
シオンは交渉が終わると決まって俺にそう言った。
彼女は全てにおいて俺の目標だった。
俺は何かに行き詰まった時、あの人ならどう考え、何をしただろうかということをいつも考えた。あの人が持っていたであろう知識は出来る限り集め、あの人がしたであろうことは出来る限りやった。
親しい者の死は残されたものを縛り付ける。
シオンが俺を庇って死んだあの瞬間から縛られることになったのかもしれない。
この墓参りもその償いの一つだ。結局彼女には何も返せなかった。命を救われ、多くのことを教わり、最後まで迷惑をかけ続けた。生まれて初めての帰る場所をくれた。そんな彼女へのせめてもの償い。
シオンの墓のある街、カルロは比較的治安が良く、墓荒らしなんかも少ない。この治安の良さは戦争が多かった70年以上前、ここが戦場にならなかったことに起因している。宿屋に泊まって安心して眠れる数少ない街の一つであるが、今回の任務の目的地からは外れている。
今回の旅の目的はあとシオンの墓に向かうだけだ。長く見積もっても2日もあれば学校のある王都まで戻れることができるだろう。だが、それは俺の望むところではない。
軍に挨拶でも行くか。俺はそんなことを考えながら、宿屋のベットに入った。




