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ep 15

アリシア視点です。

 

「魔獣だ!魔獣だ!」「子供たちを奥へ!」「助けてくれ!」


 そんな声と警鐘によって目を覚ます。アリシアは体を起こし、窓の外を確認する。まだ夜明け前だ。こんな時間に一体何があったのだろう。


 着替えてから、ホワイト家の紋章の入ったサーベルを左腰につける。学園に入る前からずっと感じているこの腰への重みはアリシアの心を落ち着かせてくれる。


 学園に入る前であれば白い綺麗なベッドにもう一度入りたいという欲と戦うことになっていただろうが、ここの宿のベッドにそこまでの魅力はなかった。もっとも、王都の外ではこんなベッドでも感謝しなければならないけれど。


 一緒に課題を受け、隣のベッドで寝ていたはずのパートナーの姿はベッドにはない。もう現場に向かったのだろうか?


 __また私を置いて行ったのか


 そんな子供じみた反論の気持ちを押さえ込み、私は宿を出た。


 魔獣との戦い方についてはレイから昨日レクチャーを受けた。魔獣は知能は高くない。直線的な攻撃や反応速度は恐ろしいが、逆に言えば人間のような何をしてくるかわからないような怖さはないとレイは言っていた。


 東の空がわずかに白んでいるが、山間の村だからなのか霧が出ていて遠くまで見渡せる状況ではなかった。


「くそ!誰か助けてくれ!」


 悲鳴じみた声が響く。息を呑み、腰のサーベルに手を伸ばす。おそらく畑を挟んだ民家の向こうからだ。


 私は魔力で身体能力をブーストし、声の聞こえた方向に全力で走った。その方向から逃げてくる人々には恐怖の表情が張り付いている。今、レイはいない。私がやるしかないのだ。


 宿の前の表通りを駆け、畑を2つほど超える。


__見えた!


 民家の前では魔獣の足止めのつもりなのか農具を持った男がなんとか抵抗しようと黒い影に向かっている。


「逃げて!私が食い止める!」


 そう叫びながらサーベルを抜く。魔力によって強化された勢いをそのまま乗せて黒い影に向かって愛剣を振り抜く。

 ガィィン!という激しい音と危うい手応えを感じる。全力の一撃を受けた黒い魔獣は民家に向かって吹き飛んだ。


「はやく!」


 へたり込んで動けずにいた男はやっとのことで立ち上がる。


__よかった。間に合った。


 私は一瞬過ぎった安堵を振り払い、魔獣が吹き飛んだ方に向き直す。


 僅かに差し込む朝日に今まで見えていなかったそれの姿が照らされる。


「ワウォォォォーン!!!」


 その瞬間に天をつんざくような魔獣の咆哮が響き渡る。


__オオカミ男。


 人間のように二足で立ち上がり、黒いツヤを放つ毛皮と狼の頭を持つそれはまさしく小さい頃にお伽話で見たオオカミ男だった。


 実際に姿が見えた途端に死の恐怖が押し寄せるのを感じる。レイや外の人たちはこんな恐怖と日常的に戦っているんだ。


「うわぁーーーーー!」


 立ち上がった農家の男が悲鳴を上げながら逃げていく。

 それを見て、改めて実感する。戦える人は私しかいない。ここで私が逃げ出せば、この村の人たち全員が殺されるかもしれない。私に、アリシア・ホワイトに逃げ道などないのだ。


 サーベルを構え、その切っ先を真っ直ぐに向ける。自分でも不思議なほど落ち着いている。怖いはずなのに周りの様子も魔獣の体勢も手にとるようにわかる。


 魔力で再度、身体能力をブーストする。


 起き上がった魔獣の背後に突進しながら上段から斬り込みそのまま剣を返しながら魔力によって強化された力だけで魔獣を跳ね飛ばす。


__まだやれる!


 吹き飛んだ魔獣との距離を詰めてひたすら斬り込む。

 今までの鍛錬で染み付いていた一連の動きが自分の体の一部となって溢れ出す。思考がどんどん加速する。


 光の筋のように剣が煌めき、その度に魔獣の体に深い傷をつけていく。刺突、斬り上げ、迫りくる爪を避けて次の一撃を懐に叩き込む。


「グオオオオオオオオオ!」


 憤怒の咆哮を上げるオオカミ男に最後の一撃を入れるべく、魔力を強める。

 真っ直ぐに振り抜いた剣が魔力を纏い、そのまま光の斬撃となって魔獣の体を大きく引き裂いた。


 斬撃によって2つに分断された魔獣の体は力なく地面に崩れ落ちた。


__終わった……。


 不安と恐怖、戦闘の中で極限まで高められた集中状態から解放され、安堵と疲れがドッと溢れ出す。立っていることも辛くなり、畑の畦道に寝転ぶ。


 寝転んだ私の顔に朝日が差し込んでいる。村に朝が訪れようとしていた。


「レイ、ちゃんと守ったよ」


 戦闘の中で体が勝手に動いた。魔力強化も限界を超えて体験したことのない領域に足を踏み入れていた。


 けれど、それを超えられるという自信があった。見えたものがあった。


 __私はまだ強くなれる。あの先に。まだ超えられる。


 差し込む朝の日差しが金色の髪を照らす。


 それでも今はこの畑から一歩も動けそうになかった。





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