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ep 14

 

 シドはニヤリと笑うと魔獣化によりブーストされた脚力で地面を蹴る。


 それは予想できていた行動であり、右手に纏わせた魔力と氷のナイフで受けるつもりだった。

 

 しかしシドのスピードは予想の遥か上を行くものだった。


「らぁ!」


 気づいた時にはシドの脚が目の前にあった。その一撃を魔力で強化した左腕でなんとか受ける。骨の軋む音がする。火花の散るような痛みが俺の腕を襲う。痛みと不快感に堪えながらシドを見据える。


 シドは着地すると間髪入れずにそのまま今度は右手の爪を構え突進してくる。


 右腕の黒い爪をすんでのところで避ける。


 耳元でブォンという風を切る重い音がした。シドの口元に薄ら笑いが浮かんでいるのが近づいたことでわかった。奴はまだ本気ではない。


  俺は体勢を整えながら後ろに跳び、用意していた氷のナイフを投げる。悠長な用意ではあったが、それがわずかな反撃につながり俺の命を救った。


  シドはナイフを避け、魔獣化した左手で高く跳ね上がり、木の枝に飛び乗った。


  俺も次の一撃に備えるため距離を取る。大気中の水分から氷のナイフを作り出し、シドの動きを確認する。


  シドは木から飛び降りるとそのままの勢いで再び目にも留まらぬ速さでこちらに向かってくる。空を裂くような右腕になんとかナイフを合わせる。


「__ッッ!」


  全体重を乗せた右手のナイフを凄まじい衝撃が襲う。

  魔獣の身体能力を活かした一撃の重さ。魔力を込めたナイフは「ギン!」と嫌な音を立てつつ真っ二つに折れた。シドの一撃に流されて体勢が崩れる。


 その隙をシドが逃すはずもない。


 __あの体勢から回し蹴り⁉︎


 認識するより前に俺の左脇腹に異形の脚がめり込む。


「がはッ」


 肺から空気が抜ける。地面に転がりながら揺らぐ意識をなんとか繋ぎ止める。


  やっとのことで立ち上がり、ナイフを構える俺をシドは値踏みするようにじっとりと眺めていた。


  月明かりと小さなランプの灯りだけでは視認してからシドの攻撃を防ぐことは難しい。このままでは間違いなく殺されるだろう。


  この状況を打開するべく、俺は自身の周囲に溜めていた冷気をさらに強めて魔法を使う。


『コールドアリア』


  俺の魔力により周囲の空間の温度を極限まで下げ、周囲のものを凍りつかせる魔法。今までの氷を操る魔法とは違う。冷気そのものを操る魔法。


  広い空間に効果のある魔法ではないが、シドを見る限りではこれでも戦える。


 落ちてきた木々の葉が一瞬のうちに白く凍りつき、地面に落ちては砕けていった。


「それが君の魔法か。初めて見るよ。やはり君は美しい」


 シドは白い冷気を身に纏う俺を見て言う。そしてまたニヤリと笑い、体勢を低くして突進してくる。


  地面を這うような位置から振り上げられる爪が地面を抉りつつ俺に襲いかかった。


 ナイフを合わせた俺の腕にガギン!という重い衝撃と痺れが伝わる。だが、先ほどのように振り抜かれることはなかった。


「うがあぁぁぁぁ!」


  今度はシドが距離を取る番だった。

 魔法に触れた魔獣の手は一瞬のうちに白く凍りついている。『コールドアリア』の範囲内に入り凍りついたのだ。この凶暴な冷気は何もかもの感覚を奪う。少なくともこの戦いではあの右腕は使い物にならないはずだ。


 そしてシドの攻撃ではこの魔法の範囲外から俺を捉えることはできない。


  シドの顔から初めて薄ら笑いが消えた。


「そうか、なるほどな」


 シドは納得したように一度頷くと手足の魔獣化を解いた。魔獣化を解除した手にはダメージが残っているようで力なく垂れ下がっている。


  今度は何をしてくる?さらに魔力を高め『コールドアリア』の空間が広がる。


「そう警戒するなよ。お前の勝ちだ」


 シドは観念したように首をすくめた。


「なに?」


「今の僕の力じゃあお前の魔法は破れない。それに時間切れだ」


「お前は一体なにを……」


  俺がそう言い切る前にシドは足だけを魔獣化し、山の奥へと消えていった。今の俺にはあいつを追跡するだけの身体能力も気力も残っていない。


  俺はその場にへたり込むとそのまま寝転んだ。俺が集中を切ったことで俺の魔力によって凍っていたナイフが溶けていく。


  正直、最初の一撃であっけなく殺されていた確率も十分にあった。軍でも後衛に回ることが多かった。特に最近は狙撃がほとんどだったこともあり、これだけギリギリで戦うことなど滅多になかった。それ故の普段はない疲労と痛みで視界が歪む。


  奴は『今は』と言っていた。おそらく戦い方も能力もまだ扱い切れていないのだろう。


  気を抜いた途端に戦闘への集中で緩和されていた脇腹への痛みが戻ってきた。一度宿に戻ろう。そう思い、ふと空を見上げると東から徐々に白み始めているところだった。なるほど、時間切れか。


  そう納得しながら俺は1人、山を降りる。


  村の方を見ると暗かったはずの村に灯りがついている。朝靄の中に薄らと見える村の光景。その中に一際強い光が見えた。なんの光だろうか。


 俺はその金色の光をとても綺麗だと思った。






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