ep 12
疲れた様子のアリシアを宿屋で休ませて、俺は被害の調査のため村を散策していた。
農家が多く、魔獣が集まるようなパワースポットもない。
今回のブラックボアを討伐したところで襲われた原因を解決しなければ、この村はまた魔獣に襲われるだろう。自然に発生した魔獣とパターンが全く違うため、人為的なものな可能性も考えられる。
「まずは被害の確認か……」
村を観察しながら歩く。魔獣に襲われたと被害届けを出した割には変化がないように見える。
「どうした兄ちゃん、考え事か?」
すれ違ったおじさんだ。農家のように見える。
「いえ、あの魔獣に襲われた家というのは……」
「あー、お前さんがギルドから来たっていう若者か。この先を歩いて行って交差点の北側だ。壊れてる家はあそこだけだからな、行けばわかるさ」
「ありがとうございます」
そう礼を言ってから、案内通りに歩いていくと目的の家があった。
その家は半壊していて人が住んでいる様子はなかった。食べ物以外は取られたものもなさそうだ。
魔獣が食べ物を奪っていったのか?それも3匹で?
魔獣は凶暴でほとんどの場合は自我がないものが多い。しかし、荒らすだけでなく食べ物を奪っていったとなればそうではないのだろう。
そして何より襲われたのがこの一軒だけということ。今回の事件はかなり特殊なものだ。
今回はブラックボアという最下級の魔獣だからマシだったものの、群れで行動する魔獣が増えれば厄介なことになる。
襲撃があったのは1週間ほど前でそれ以来襲われたという情報はない。探し出すにしても村の北側は山なのだ。俺たちが滞在する1週間で探すには範囲が広すぎる。
調査を切り上げ、宿に戻ると魔獣、もといアリシアが待っていた。調査に置いていかれたことが不満だったようで、部屋に入った途端、冷たい目で睨まれた。
「なんで私を置いていった」
アリシアの声もいつもより冷たい。
「慣れない外の世界での旅だ。休むことも必要だろう。集中力を切らした状態で戦場にいればいつか死ぬ。そうなりたいのか?」
そういう奴は何度も見てきた。少なくとも今は無理をする場面じゃない。
何より、アリシアはこんなところで死なせるわけにはいかない。
「足手まといか?」
「逆だよ。イレギュラーな出来事に遭遇した時、1人じゃ対応しきれないこともある。いざという時に戦えないとこっちが困るんだよ。そのために休むことは必要だ」
「……やっぱり元から外にいた人には敵わないね。すまない、忘れてくれ」
流石に強く言いすぎたか?
いや、アリシアを死なせないためであればこれくらい安いものだろう。
「焦る気持ちはわかるけどな。俺もそういう風に叱られたことは何度もある」
「わかった。それはそれとして、調査してきた内容、聴かせてもらえるんでしょうね?」
「大した情報は得られなかったよ。魔物は食べ物を奪っていったらしいということくらいだな。狙いはわかっていないが、潜んでいるとすれば、あの北側の山だろうな」
「山かぁ。あそこから魔獣を探し出すのは骨が折れるね」
「そうだな。今日は休もう。明日、また調査してから対策を練ろう。村が被害に遭わなければ魔獣を討伐しなくても一応、任務達成だからな」
人為的な事件の可能性は伏せておく。ここから先を考えるのは俺の仕事だ。
「うん、レイのお手並み拝見だね」
「アリシアも考えろよ。任務は2人で受けたんだから」
「シアでいいって言ったのに。正直私にはわからないことだらけだし、レイの作戦を聞いてから考えたいかな」
「わかった。それから俺が逃げろと言ったらすぐにそこから逃げること。何があってもこれだけは約束してくれ」
「うん、じゃあお言葉に甘えて少し休ませてもらうことにする」
それからしばらくすると寝息が聞こえてきた。
「ああ、何があっても一番優先するべきは自分の命。それだけは約束して」
アリシアには魔獣を処理してもらわなければならない。俺がするべきはその元凶を断つこと。
それは今夜で十分だろう。