ep 11
依頼を受けた村はのどかな農村だった。山間にあり、畑と木造の家が広がっている。今俺たちがいる丘の上からはその村を一望することができた。
「綺麗」
隣に立つアリシアがポツリと呟く。ずっと街で暮らしてきたアリシアからはこの景色は珍しいものだろう。
「とりあえず村長のところに行こう。依頼主は村長らしいからな」
「そうだね、あの少し大きめの建物がそうじゃない?」
アリシアはその建物を指差しながら言う。俺たちはそこへ向かうことにした。
村の中は平和そのものだった。村人たちも朗らかで俺たちを受け入れてくれているように見える。
アリシアの言った建物の前には人が立っていた。身体の大きな男の人だ。
「依頼を受けてくださる方ですね。お待ちしておりました。どうぞお入りください」
男はそう言うと俺たちを建物に招き入れた。
外見からは教会のような印象を受けていたが、中は普通の家と変わらなかった。
俺たちが通された部屋は本がズラリと並びその分野は多岐にわたっていた。魔獣に関するものもいくつかある。アリシアも物珍しそうに部屋を見渡している。部屋を観察していると村長と思しき初老の男性が部屋に入ってきた。
「こんなに若い人たちだとはね。私は村長のトマスだ。今回は魔獣の駆除を引き受けてくれてありがとう」
トマスさんは目の前のソファーに腰掛けながら言った。
「あの、先ほど迎えてくださった男性は……」
「ああ、うちの村で一番の腕を持った兵士でね。シドというんだ。彼がどうかしたか?」
俺の質問にトマスは快く答えた。
「いえ、なんでも」
『彼ほどの腕があればブラックボアを退治することは可能ではないか』と思ったが、それを質問するのは失礼な気がした。実力とは関係なく死の危険のあることを依頼するのは自然なことだからだ。
トマスは俺たち2人に向き直すと改まって話し始めた。
「さて、本題だ。この前からイノシシが出ていてね。村を荒らされることがあったんだ。だが、そのうちの何匹かが魔獣のブラックボアに変異していてね。君たちにはそのブラックボアを退治してもらいたい」
「魔獣は複数で行動していると?」
アリシアが質問した。魔獣は基本的には群れない。同時に複数個体が変異したということも珍しい。
「ああ、そうだ。ブラックボアは大して強い魔物ではないが、群れているとなると話は別だ。この村はそれほど大きな村ではないし、兵力もない。そこでギルドに依頼をしたんだ。どうかよろしく頼む」
そこまで言うと、トマスは頭を下げた。
「わかりました。少しの間この村に留まり、魔獣に対応したいと思います」
「ありがとう。君、この2人を部屋まで送ってくれ。では私は仕事があるのでね」
トマスはメイドにそう指示すると部屋を出ていった。
俺たちはメイドに連れられ、用意されていた宿に案内された。
「今回の依頼だけど、魔獣が複数で群れるなんて聞いたことある?」
歩きながらアリシアが質問した。疑問に思っていたのだろう。
「確かに聞いたこともなければ前例もない。けどそれ以上に魔獣に関してわかっていないことも多い。群れているならそれに対応するしかないよ」
「そう、私は少し寝るわ」
アリシアはそう言うとベッドに入った。旅の疲れもあるだろう。
俺はこの村をもう少し調査することにした。退治しろという割には圧倒的に情報が少ないのだ。アリシアが寝たのを確認してから部屋を出た。
今回は一筋縄ではいかない。そんな嫌な予感がしていた。