ep 9.5
俺たち、リューのチームは薬草の採集を終えて、あとは帰るだけだった。帰れるはずだった……。俺たち4人は森から帰る途中、賊に襲われた。相手は3人だけだった。だから勝てると油断していた。
すぐに逃げるべきだったが、その時の俺たちは冷静な判断力は持ち合わせていなかった。人数の差による油断もあった。外の人は魔法が得意ではない人が多いと聞いていたこともあり、その時は勝てると思ったのだ。
冷静に考えれば実戦経験ゼロの学生なんかが、人を襲って生活するような犯罪のエキスパートに勝てるわけないとわかるのにだ。
そのことに気づいた時には自分の体は傷だらけになっていた。その瞬間から俺は次第に恐怖心に囚われた。そしてそれは他の三人も同じだった。そうなってしまえば、もうまともに戦えるはずもない。
俺たちは逃げだした。
だが、相手の方が何倍も上手だ。そんなことで逃げられるはずもなかった。
逃げている時だった。少し逃げ遅れていたヴォイドが追いつかれ、ナイフで襲われた。人が死ぬ瞬間を見たのは初めてだった。それについて何か思うような暇を賊は与えなかった。すぐに二人目、ロイが殺された。
二人とも即死だったと思う。その時生きていた残りの二人、俺とセバスはもう何がなんだかわからなくなっていた。
だが、俺たちは運が良かった。賊に襲われた時点で運は悪かったあとだったかもしれないが、それでも不幸中の幸いだった。
無我夢中で森の中を走っていたとき、軍の人でこの森を警備していた人に出会えた。俺たちはその人たちにしがみついた。向こうは俺たちが学生だということに気づくとすぐに保護し、事情を聴いてくれた。
俺たちを追っていた賊は軍の人に気づくと森の中に消えていった。
軍の人と一緒にヴォイドとロイのところに戻ると彼らは身ぐるみを剥がされ、金目のものを含めて全てが奪われていた。無残な姿だった。目を見開き空中を見つめる表情が恐ろしくて仕方がなかった。
あの二人を見殺しにして俺たちだけ助かった。その罪悪感からしばらくは何も話せなかった。軍の人に連れられ、俺たちは学園に戻った。
学園に戻ると既に俺たち以外にも戻ってきている人たちがいた。
ラナ先生に報告に行くと先生は『わかった』とだけ言った。犠牲が出たのは俺たちのグループだけではなかったらしい。
その反応から先生はこういうことに慣れているのだということを察した。
俺とセバスは何も言わずに部屋に戻った。
俺にはもう戦う気力は残っていなかった。死んだ二人の絶望した表情が頭から離れない。これから何回もこういうことを続けていくと考えると恐ろしくなった。