ep 1
拙い文章ですが、読んでいただけたら嬉しいです。
読みにくい点、改善した方が良い点などあったらどんどんコメントお願いします。
「人の心を動かすのは、本当に人を動かすのは言葉だ。言葉や文字で人を殺めることだってできる。一言で戦争になることだってある。魔法はただの力だ。力に任せて人を傷つけても何も解決しないんだよ」
シオン・アイヴィアスはまだ幼かった俺に向かって諭すように言った。
5歳のとき、スラム街でシオンに拾われ、彼女に育てられた。彼女の目にこの世界はどう映ってていたのだろうか。結局、俺はシオンの言うような人間にはなれなかった。
「おい、ターゲットはすぐそこだぜ」
パートナーの一言で現実に引き戻される。右手を前に突き出し、水の中に潜っていくように集中力を高める。
「しっかりしてくれよな。お前がミスったら終わりなんだからよ」
隣にいる大男、ゴーシュは言う。
俺、レイ・アイヴィアスと相棒、ゴーシュ・ノワールはトルカ王国の軍に所属している軍人だ。そして今、俺たちはある人物の暗殺のため隣国のある街に来ていた。
ただ命令されたから殺す、それが軍人の仕事だ。余計な感情を抱かないよう、ターゲットについての詳しい情報は教えられていない。
大きな戦争が起きていない今、軍人の仕事はあまり多くない。暗殺か魔獣の退治くらいなものだ。
突き刺すような夜風とこれから誰かの命を奪わなければならないという事実が俺の心を冷やしていく。
これから俺に殺される予定の男は高そうな椅子にふんぞり返って座り、タバコを吸っている。俺とゴーシュが潜伏しているのはそこから50メートルほど離れた家の屋根の上だ。
「今回はここからか」
俺のすぐ近くで周りを見張るゴーシュが囁くような声で俺に尋ねる。その問いに軽く頷いてから、体を巡る魔力を集中、それを自分のイメージする形に変換する。
「ああ、俺の魔法のぎりぎりの射程圏だ」
大気中の水分を氷魔法で凍らせる。魔力を込めた氷の弾丸は当たった者の体温を一瞬にして奪う。大型の魔獣や魔法で強化している軍人は無理でも、油断している一般人を殺めるには十分な力だ。
俺の放った弾丸が当たるとターゲットだった男の身体は糸の切れた人形のように椅子から崩れ落ち、動かなくなった。
それを確認した途端、とてつもない吐き気に襲われる。人を殺したのは初めてだったわけではない。それでも、人を殺した後のこの吐き気は初めての時からずっと治らない。
住んでいた小さな村が賊に襲われ、自分の居場所を失ってから、俺は生きるための手段は選ばなかった。犯罪にだって手を染めた。
シオンはそんな俺に魔法を教え、真っ当な道に戻そうとしてくれた。あの人に色々なことを教えられて、初めて人の命を奪うことを恐ろしいと思った。命を奪った対価がこの吐き気なのだとすれば軽い。
シオンから教わった魔法をこんな風に使っているのだから笑えない。
「さっさとこの国を出て、王国に戻るぞ」
ゴーシュが言う。この国ではもう俺たちはただの犯罪者だ。さっさと自分の国に戻った方がいいだろう。俺は吐き気を堪えながら暗い街を歩いた。
トルカ王国の王都は平和だ。俺たちの普段生きている場所と同じ世界にあるとは思えないほどに。
この王都では16歳になった次の4月に魔法学園に集められる。王都内では義務になっている。この学園は国が経営するもので、魔術や戦い方を学ぶためのものだ。
しかし、卒業生のほとんどは王都で働き、戦場に出る人間はほとんどいない。実践的なことを学ぶことは少なく、その多くは研究のようなものだ。王都内で就職したり、身分を証明するためにはこの学園を卒業していなければならないため、この国でまともに生活するためにこの学園に通うことは必須とも言える。
俺は王都で暮らす予定はこれからもなかったのだが、学園に通わなければならないらしい。上司からの命令には逆らえない。軍もトルカ王国直属の機関であるため義務を放棄することはできなかったのだろう。