奇襲
天葬騎士団 野営地
野営地の中でも一際大きなテントの中でオーダイは酒を嗜んでいた。
「しっかし、あの爺さんの表情ったらなかったぜ。なぁ!そう思わねぇか?」
「そうですね!真っ青なあの表情は傑作でした!」
「ハッハッハッ!!ハ―ハッハッハッハ!!オエエエェエェェェェ…」
一人の男が笑い過ぎで吐いてしまった。騎士達は完全に酔っぱらっていた。しかし、オーダイは気分こそ高揚しているものの、他の騎士達と比べてまだほろ酔い程度だった。
「しかし、ラーゲレイドもいいことするもんだなあ。選定は俺には最高の裁きだぜ。カッカッカッカ!」
そんな宴会の雰囲気を一瞬でぶち壊すように別の騎士がテントに飛び込んできた。
「報告!!奇襲です!!敵は浮遊族と思われます!負傷者は八名!」
「あぁ?奇襲だあ!?」
「はい」
「で、敵はどうしてる?」
「それが…」
騎士は少し言葉を濁した。
「撤退しました。もう姿は見当たりません」
「なるほどなぁ…それが奴らの答えか!最高だぜ!ハッハッハッハッハァ!!」
オーダイは高笑いをしていたが、それが終わると表情から感情が消えた。
「おい。全員で負傷者の手当てに当たれ」
「ですが…それでは…」
「あいつらは俺にというかあいつに任せる。スズセルを呼べ」
スズセルという名に騎士の表情が強張った。いや、恐怖という方が正しいか。
「あれは団長から緊急時のみにと言われて…」
騎士はスズセルの実力を知っているのか、苦言を呈した。
「あぁ?なんか言ったか?」
オーダイは騎士を脅すように睨み付けた。
「いえ。何でもありません」
「団長のお気に入りだかなんだか知らねぇが、どこぞの馬の骨に天葬騎士団を牛耳られるのは許せねえしな。きっちり、実力を見せてもらおうぜ」
「ですが…」
騎士はこれから起こる惨劇を想像したのか、言葉を素直に受け入れなかった。
「だったら、お前がスズセルにやられてみるか?俺はな、あいつの実力を知れればそれでいいんだからな」
「……了解しました」
騎士は渋々了承し、テントを後にしようとした。
「おお。ちょっと待て」
騎士が足を止め、振り返る。
「火矢を放て。派手な方が面白ぇしな」
「…はい」
今度こそ、騎士はテントを後にした。その背中をオーダイは満足そうに見送った。