『選定』
勢いよく扉を蹴破り、男が家に足を踏み入れた。
「失礼すんぞ」
青と銀で彩られた甲冑を身に纏い、青色の短髪をしたその男、オーダイは自分と同じ身なりをした騎士を数人連れてきていた。
「な、なんじゃ貴様らは!」
「あんたがガンドか?」
「そうじゃが、人の家に入る時の礼儀ってものを知らんのか!だいたい―――」
説教を始めようとしたガンドにオーダイはその冷たい視線で一瞬にして怯えさせた。
「黙れよ」
「うっ…」
「俺は天葬騎士団、副団長のオーダイってもんだ。お前がこのクソ民族で族長の次に偉い奴だと聞いてきたんだが、あってるか?」
「あぁ、間違いはないが…一体何の用じゃ?」
「実はな、あんたらの族長、名前はなんて言ったかな?まあいいか。その族長だが、明日処刑されることになった。処刑理由だが、謀反罪と傷害及び破壊行為によるもの。あんたらの族長はこちら側の決定に従わず、会議中に暴れ出してな、怪我人を数人出したんだ。それで、これが処刑執行許可書の写しだ。取っておけ」
オーダイはガンドが座っていたテーブルに封書を乱暴に投げ渡した。ガンドはそれを開き、中身を読み進めていくうちにみるみる顔色が悪くなっていった。
「こ、これは…本当なのか?」
「あぁ、事実で決定事項。もう誰も変えられない。だが、俺がここへ来た理由はそんなことを伝えにきたわけじゃない。ここからが本題だ」
「??」
話を見えないガンドを余所にオーダイは話を進めた。
「既に族長自身の処分は決まったが、このクソ民族の処分はまだだ。あんたらがスナス人の子孫であるか、どうかのな。そこで、ラーゲベルダ元老が下した処分を伝えにきた」
淡々と話を進めるオーダイだったが、その表情は今にも胸糞悪いと言葉を吐き捨てそうなものだった。
「俺は気に喰わないが、元老はこんなクソ民族にも慈悲を与えてくれるそうだ。だから、選択しろ。最初の処分通り、民族の繁栄禁止及び滅亡か、或いは―――」
「ガンドさん!大丈夫ですか?」
話を遮ったのはルナとログダンだった。二人は入ってくるなり、すぐにガンドに駆け寄った。
「おい!じいさん、怪我はないか?」
「ちょっと、貴方達!一体何の用なの?」
二人は威勢良く騎士に刃向かう態度を見せた。オーダイは明らかに浮遊族にとって招かれざる客だった。
「存続の為にこのクソ民族の浮術だったか?あれの全てを国に渡し、そしてこのクソ民族に徴兵制を敷き、国の管理下で生活するか。まぁつまり、国の奴隷になれってことだ」
「な、なんと言うことを…本当にそれが元老の総意だというのか?」
「ラーゲベルダ元老は前の甘っちょろいクソじじいとは違う。お前達は張本人だから、この国が抱える民族問題くらいは知ってるだろう?多種族が自分勝手に横行しているこの国が変わる時が来たと、国の意志が統一される時だとラーゲ様は仰った。それが『選定』だ」
気分良さそうにその事実を突き付けた。
「お前達は選定の第一号になれたんだ。喜ぶんだな。あの男は答えを出さずに暴れ出したから、処刑されるのさ。まぁ、これは選定という名の迫害だがな。暴れてくれたのは有難かったぜ?ハハハハハハ!あぁ、そうだ。おい!」
「はい」
背後にいた騎士から書類を受け取ると、それをガンドの目の前に差し出した。
「もし、後者を選ぶのならこれに署名してくれな。一応、今日一日は待ってやるからよ。答えが出たら、こっちまで来てくれよ。ここは田舎だから泊まれる街もねぇし、その辺でキャンプしてるからな。じゃあ、用も済んだし俺は帰るぜ」
オーダイと数人の騎士は踵を返し、家を後にした。
「ガンドさん。これはいったいどういうことなんですか?」
ルナの質問を意に介せず、ガンドは神妙な面持ちで言い放った。
「ルナにログダンよ。皆を集めてくれ。この村の大人達全員をだ」
「は、はい」
「分かったぜ、じいさん」