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闘将ギレ

「??」 「??」 「??」

 バイス達三人は同様に頭の上に疑問符を浮かべた。

「貴方達が正解した半分は、私とギレが繋がっていたということです。しかし、それはこの時の為だった、ということです」

 ミトロは三人に背を向けたまま、言葉だけを向けた。

「ギレ殿。まずは先日の突然の訪問と御無礼をお詫びさせてもらいます。失礼しました」

「いや、私も先日は感情的になり過ぎてしまった。しかし、主の言葉はあまりに的確だったという証拠でもあろう」

「そう仰っていただけると幸いです。それでは、例の件については考えていただけましたね?」

 どんどん話の方向性が二人だけにしか分からない方へ向かっていた。しかし、今の状況を考えるとバイスは下手に口を開く訳にはいかなかった。それはハーネやガルゼナも同じだった。

「そちら側に寝返ろ、という話だろう?検討させていただいた。そして、私が出した答えはこれだ」

 ギレは馬から降りると、その巨体を揺らしながらミトロの目の前まで歩みを進めた。

間合いまで来ると腰に差した三本の剣の内の一本を抜き、その剣先はミトロの鼻を掠めるほどまで伸ばされた。

「これは決裂…ということですか?」

「あぁ。色々と考えはしたが、やはりどんな形になろうとも忠誠を誓った祖国は裏切れぬ」

「そうですか…しかし、貴方の忠義は先代のニゲン王の為のものではないんですか?ニゲン王は今の王が私利私欲の為に、私腹を肥やす為に国を使うことを望んでいるのでしょうか?いや、こんな御託じゃ意味ねえよな」

 ミトロの口調が静かに変わった。

「ギレ、お前はフェルス・フィーズを知ってるだろ?あの男がいなければ、ラジアン階級は未だに続いていた筈だ」

「う、うむ」

 ギレもミトロの様変わりに僅かだが、戸惑いを見せた。

「ガルゼナ、フェルス・フィーズって誰?それにラジアン階級って…」

「はあ…セオネイアの奇傑を好きな貴方がその名を知らないんですか…」

 ガルゼナは呆れながらも説明を始めた。

「フェルス・フィーズとはセオネイアの奇傑の本名ですよ。それと、ラジアン階級というのはレブ帝国の階級制度ですよ。皇帝一族のみに与えられる天級位エンぺ、貴族やそれに付随する高級民衆が貴級位ジャック、一般的な民衆は普級位ベース、そして、人間以下として扱われる隷級位ドールの四つに分けられます。それで、そのラジアン階級を廃止させたのがラジアンの大逆殺。ラジアンの大逆殺では天級位と貴級位にいた人々の殆どが暗殺されました。最後にラジアンの大逆殺をたった一人で行ったのがのちにセオネイアの奇傑と呼ばれるフェルス・フィーズというわけです。これは余談ですが、セオネイアの奇傑という名はラジアンの大逆殺が中心的に行われたセオネイア地方に由来しています。革命後、すぐに彼は死亡が確認されているというのが悲しいことですがね」

「そうなんだ。セオネイアの奇傑が伝説の革命家って言うことは知ってたんだけどなぁ…」

「俺はラジアン階級の悲惨さをこの目で見てきた。ドールはもはやただの物。誰かの所有物なんだ。この国もあのアホ王の一声であれだけの惨劇を起こしてしまうのかも知れないんだ。それを理解してほしい」

「くっ…しかし…」

 ミトロの口調は話を終えたところで何事もなかったように戻った。

「これは事実です。あれに関してはその目で見なければ理解するのは難しいでしょう。しかし、私は貴方に問いたい。貴方はそうなってもいいのか?ドールという階級の苦しみをこの国の人が味わってしまってもいいのか?そして、貴方はそれを止められるのか?」

「……………」

 ギレは剣をミトロの鼻先から離してしばしの間悩み、そして結論を出した。

「分かった。主に賭けてみよう。但し、一つ条件がある」

「何です?」

「主の実力を見せてもらおう。一対一の勝負だ。もし、私に勝てるのなら、協力を惜しまない。しかし、負けるのなら、この戦争は反乱軍の負けで終わりとなるだろう」

 勝負を突き付けたギレだが、これはギレがミトロを試していたのだった。

 ――ミトロ・ロル。貴殿は確かに策略家としては名を馳せているが、戦闘に関しての実力は皆無な筈だ。だが、それでも向かってくるというのなら、私は潔く主につこう。だが、そうでなければ―――さぁ、どう出る?ミトロよ。

「いいでしょう。バイスさん、剣を貸していただけますか?」

「あぁ。いいぜ」

 バイスは剣を抜き、それをミトロに手渡した。ハーネは両手を合わせ、ただ祈っていた。

「ちょ、ちょっと待ってください!ミトロ様、駄目です。貴方に勝てる相手ではない!」

 珍しく取り乱しているガルゼナがミトロを止めようとした。しかし―――――

「大丈夫です。私が勝ちますから」

 どこからわいてくるのか、と問い質したくなる程の妙な自信があった。しかし、その自信がガルゼナのこれ以上の言葉を止めた。

 ――勝てる筈がない。貴方は策略家としては凄くても戦えない。それはギレも分かってる筈です。なのに…

「では、こちらから行かせていただきます」

「うむ。いつでも来い」

 両者は構え、対峙する。

 勝負は、一瞬だった。

 傍から見れば、ミトロが一歩踏み出ただけだった。しかし、それでギレの剣は手から弾かれ、孤を描いてどこかへ飛んでいった。

 ――なっ…!

 今起きたことを理解出来たのは対峙したギレ一人だっただろう。そして、その驚きの一瞬でギレの首元まで剣が迫った。

「どうです?実力は分かっていただけましたか?」

 ――この男、化け物か…?

「ふっ…いや、そうか。私は最初から騙されていたのだな。ミトロは戦えないという偽の情報に。貴殿はどこまでもいっても策略家ということだな」

「切り札というのは最後まで取っておくというのは策略の基本ですから」

 しかし、ギレが持っていた情報に間違いはなかった。確かにミトロは弱い。それはもう並の兵士よりもだ。

ただ、ギレが持っていた情報がミトロ・ロルの情報だった、というだけのことだ。

「仕方ない。協力を約束しよう」

「ありがとうございます」

「それで、どうするのだ?我らの兵を加えたとしても本陣に突入するのは難しいと思うが?」

「私の策はこれだけではありませんよ。では、あの場所に向かいましょうか」

 そう言い残し、ミトロは歩きだした。その後にギレの部隊やバイス達が続いた。そんな中でハーネはふと、ミトロの言葉を思い出していた。

 ――三つ。それはギレという男が正規軍にいること。彼は正義感に溢れる最高の猛将です。だからこそ、彼には漬け込む隙がある。今の正規軍や国の現状には黙っていられないはずです。しかし、彼は義理堅いところがあり、その信念が正規軍に留まらせているに過ぎないのです。私は高確率で彼を説得できると確信しています。これこそが最大の勝因になるでしょう。

「なんだか、ホントにミトロの言う通りになっちゃってるような…」

 何一つとして杞憂はなかったが、なんだか言った通り進みすぎているのが逆に少し腹立たしくもあった。



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