詐欺師、オヤビン
「オヤビン!オヤビン!!」
「なぁ、イヅナ。前から言ってると思うが、そのオヤビンって呼び方はやめろ」
「でも、オヤビンはオヤビンじゃないっスか」
「だから、俺はそのどこかの小悪党の頭見たいな呼び名が嫌いなんだよ」
「分かったっスよ。わがままなんスね、オヤビンって」
「だから…」
まだ十五歳ほどの幼い少年、イヅナに薄い土色の髪で爽やかな顔立ち男、オヤビンは苛立ちから拳を握ったが、それは何度言っても治らないことなので、今は我慢した。
――一回怒ってやらないと、わかんねぇみたいだな。この仕事が終わったら、みっちり説教してやる。
「で、どうした?」
「いや、オヤビン。ここって、反乱軍のアジトじゃないスか」
「そうだけど?」
二人の視界の奥に広がっているのは西の小国、ガルバ王国にあるルオル城だった。
「そうだけどってどうするつもりなんスか?まさか、乗り込もうなんて思ってないっスよね?」
「乗り込むんじゃねぇって。入り込むんだ。お前、俺らの仕事を忘れてないだろうな?」
「詐欺師……スよね」
「反乱軍ってのはな、意外といい金になるんだ」
「そんなわけないじゃないっスか。だって、奴らは正規軍との戦闘の為にすべて金を使いきってる筈っスよ」
「説明しないといけないか?」
「是非、お願いするっス」
「いいか?ガルバ王国の革命戦争はもう最終局面を迎えている。しかし、反乱軍の兵士達は疲弊し、資金だってそこを尽き始めてる。もう、最後を戦い切る程の力は残ってはいない」
「だったら……」
「だが、そんなか奴らを助け、最後の戦況を乗り切れたとしたら?反乱軍は助けた奴のことをいったいどう思う?」
「そりゃあ感謝で一杯じゃないっスか」
「だろ?だから、助けてやるんだよ」
「はっ?オヤビン、自分で何言ってるか分かってるっスか?」
「ガルバ王国ってな、確かに小国だが、幾つもの金鉱に恵まれてるおかげで財政だけはかなり裕福なんだ」
「全然話が見えないっスよ」
「つまり、奴らを助けて反乱軍が国を取った時に、国の財政からたんまりといただこうって訳だ」
「でも、どうやって助けるんスか?」
「そこはもう既に計画が出来てる」
「オヤビン、僕は置いてけぼりっスか?なんにも聞いてないっスよ。あっ!もしかしてこの前会いに行ったあのツルピカンは何か関係あるんスね!?」
「そんなに先走るなって。いいか、まずこれから俺のことはオヤビンではなく、お師匠様かミトロ様って呼ぶんだ。いいな?」
「…?誰っスか?その爆弾みたいな名前の人は」
「それはニトロだろ。お前、まさかミトロ・ロルを知らないのか?」
「だから、知らないって言ってるじゃないっスか」
「ミトロってのはな…いや、時間が惜しいからやっぱ説明はしない。それより計画だ」
「気になるじゃないっスか。ちゃんと説明……」
「いいか?さっきも言ったがもうこの革命戦争は最終局面を迎えてる」
「無視っスか」
「しかし、だ。反乱軍はこのまま向かえば敗北は明らか。だからと言って、このまま兵力を整えている時間はない。そんなことしてたら、相手の正規軍に攻め込まれておしまいだ。そこで、俺がミトロのふりをして反乱軍に策を渡す。それだけだ」
「計画って言う程のものではないじゃないっスか」
「まぁ、策ってのは見てのお楽しみだ」
「また無視っスか」
「とりあえず、行くぞ。いいか?必要な時以外は黙ってろ」
「はーい。了解っス。オヤビン」
「だから、オヤビン言うな!」