求婚
「順を追って説明しましょう。国王陛下と王妃は、常々、末の娘であるミルティさまのことを心配しておられました。年ごろなのに一向に落ち着く様子のない王女は、幼なじみの警備隊長を困らせてばかりいる。警備隊長のほうも、なんやかんや言いながらも王女の面倒をきちんとみている」
「それが俺の仕事だからな」
「君の仕事は警備であって、お守りではないはずだけれどね。警備隊長はラクラーナ王国で三本の指に入る名家のご子息で、王女が嫁いでもなんら問題はない。ところが、誰の目から見ても似合いのふたりなのに、当人たちはいつまでたっても子どものように一緒に遊んでいるばかりいるのです。これでは周囲が気をもむのも道理でしょう」
トルクが大仰にやれやれと肩をすくめてみせる。
「子どものようにとは失礼だな」
「そうよ。決して一緒に遊んでいたわけじゃないのよ」
「傍からはそう見えたのだそうだから、仕方がないね」
マシューがくすくすと笑いながら言う。
「まあ、そういうわけで、王女に結婚話でも舞い込めばさすがの鈍い警備隊長も自分の気持ちに気づいて焦るんじゃないかと思ったわけです。ところが警備隊長はどこまでいっても鈍かったのですね」
シャンが不満そうに眉間にしわを寄せる。
「俺が、鈍い……?」
「鈍くないとでも? 果たしてその男は王女の幸せを祈るなどと言って、その結婚を奨励したわけです。王女も王女で、そんなときだけいらぬ心配をして、一風変わった求婚相手と律儀に文通を始めたりする。作戦は失敗かと思われました。しかし
『いよいよミルティの我慢が限界に達し、王宮を抜け出した。行き先は十中八九レッツェル山だ。警備隊長にミルティを追わせ、マシューリアにはふたりの成り行きを見届けるよう頼んだ。あとは任せる』
という伝令が昨夜陛下から届いたのです」
「つまりこれは茶番だったというわけか?」
「そのおかげで、君もいい加減、自分の気持ちに気づいただろう? 昨夜は同室で、よく眠れたかな?」
「何故それを知っているんだ!?」
「さっきトルクが言っただろう? 僕は陛下から君たちの成り行きを見届けるよう言われているんだ。任務はきちんと遂行しないとね。それよりほら、彼女はもう自分の気持ちを自覚しているようだよ?」
マシューに指摘され、ミルティの頬が赤く染まる。それを見たシャンの耳も、微かに赤味をおびる。
「……ミルティには、ずっと想い人がいた。その想いを受け止めてもらえなかったときのミルティの哀しみ様は相当なものだったけれど、俺はどうしてやることもできなかった。俺は自分の力不足を痛感したんだ。俺では駄目だと、そのときわかった。俺では、ミルティを幸せにすることはできない」
「シャン、それはもう十年も前の話よ。今、わたしはトルクに対して恋愛感情を抱いてはいないわ。なんでも相談できる、大好きな友人ではあるけれど。それにあのとき、一晩中泣いていたわたしの傍に、黙ってずっと一緒にいてくれたあなたにはすごく感謝しているの。なにもできなかったなんてことはないわ。今思えば、いつからかわたしはあなたのことを……」
「ミルティ……」
ふたりの視線がぶつかる。
「わたし、シャンのことが……」
「待て。俺が言う。もし……もし俺でもよければ……俺と一緒になって幸せになれると、そう思えるのであれば、俺と結婚してくれないか」
シャンがミルティの言葉を遮って気持ちを伝える。
その台詞があまりにも自信なさそうで、ミルティは思わずくすりと笑ってしまった。
「ミルティ?」
「ありがとう、シャン。そのお申し出、謹んでお受けしますわ。だからわたしを、幸せにしてね」
シャンほど自分の幸せを考えてくれた人は、きっといない。
ミルティはそう思った。
耳を赤く染めて、緊張のせいか少し顔をこわばらせながら求婚してくれるシャンを、ミルティはとても愛しく思う。
「ああ。約束する」
シャンの灰青色の瞳には、とても幸せそうなミルティの顔が映っていた。
了




