これからのこと
二頭立ての馬車が速度を落とし始めた。
ミルティは髪留めから零れ落ちる琥珀色の長い髪を背中に払い、幌の隙間からサファイア色の澄んだ瞳を外に向けた。
路上を歩く人の姿が増えている。街が近い証拠だ。
馬車が止まって幌が上げられる前に降りなければ、見つかってしまう。
ミルティは周囲の様子を注意深く観察する。
街中に入ってしまえば、もっと人が増える。その前に降りてしまいたかった。
道は二頭立ての馬車がようやくすれ違えるほどの広さだ。前方から蹄の音が近づいてくる。
ミルティはぐしゃぐしゃになった手紙をポケットに押し込み、荷台の端に手をかける。
馬車がすれ違った直後、ミルティは荷台から飛び降りた。
すれ違いのために馬車は速度をかなり落としていたので、よろめいたもののなんとか転倒は免れる。
周囲を見渡して様子をうかがう。
馬車の死角になっていたので、誰にも見とがめられなかったようだ。
さて、これからどうするか。
幼なじみのトルクは、国境近くのレッツェル山で銀を掘っていると聞いていた。
けれどその場所までは遠い。歩いて行くのは到底無理だ。
馬には一応乗れるけれど、女の子が単騎で街道を走っていたら、嫌でも目立つ。
両親はミルティを探しているはずで、見つかれば強制的に連れ戻されることは明らかだった。
――結論。馬車を利用するのが一番いい。
それはわかっているけれど、問題がひとつある。
ミルティは金を持っていなかった。
装飾品の類は邪魔なのでいつも身に着けていない。金に換えられるとしたらドレスか靴、あとは長い髪をまとめている髪留めくらいのものだ。
このドレスは目立つから、着替えたほうがいいかもしれない。
靴も、歩きやすいものと交換してもらおう。
髪留めがなくても、適当な紐か何かで束ねれば問題ない。
ミルティは素早く決断して、足を速めた。