正体
「え? ええっ!?」
ミルティは目を白黒させてマシューとトルクを交互に見やる。
「ああ、マシューリア。よく来たね」
トルクが笑顔を浮かべてマシューを迎える。
その親しそうな雰囲気と、さきほどのマシューの言葉を照らし合わせ、ミルティは「まさか、マシューもトルクの知り合いなの!?」と脳内で叫んでいた。
「どうだい? 作戦は成功したかな? いや、道中なかなか大変だったんだよ、僕も戦闘に駆りだされたりして……」
「これはどういうことだ?」
シャンが目を眇めてトルクを見る。
「紹介しましょう。こちらは私の婚約者マシューリアです。こんななりをしているけれど、これでもれっきとした女性なんですよ。いつか紹介しようと思っていたんのですが、なかなか機会がないままここまできてしまいました。道中、なにか無礼を働いていましたら、どうぞ私に免じて許してやってください」
「なにも無礼なことなんかしてないよ。心配性だなぁ」
するとマシューが、同意を求めるように目配せをした。
「ええ、マシューはなにも。それにしても……トルクが婚約したという話は聞いていたけれど、貴方だとは思わなかったわ」
「まあね、きちんと名乗らなかったんだもの、仕方がないよ。陛下から、トルクに会いに行ってほしい、と頼まれたときには何事かと思ったけれど、作戦の成果がこの目で見られたし、トルクの友人がどんな人たちなのかもよくわかったし、トルクにも会えた。少々危険な目にあったとはいえ、よい旅だったよ、うん」
「作戦とはいったいなんだ? その言いぶりからすると、陛下も何かご存知のようだが」
シャンの表情は緩まない。
「うん、まあ、親心だよね。僕もトルクの親友にはぜひ幸せになってもらいたいと思ったし、このまま放っておいて王女さまが婚期を逃すのも忍びないし」
「つまり?」
ミルティが先を急かす。
「つまり、僕が君に求婚する役を仰せつかったんだ。証拠と言うわけじゃないけれど、これは今度君に送ろうと思っていた手紙」
はい、と言いながらマシューが懐からひらりと封筒を取り出した。
見慣れた封筒に、ミルティはどきりとする。
慌てて封をきると、中から現れた紙は見慣れたものだった。恐るおそる開いたそこにも、ミルティのよく見知った字が並んでいる。
それは、宿帳に書かれた文字とよく似ている。
はっとミルティはスカートのポケットに手を入れた。
そこにはくしゃくしゃになった手紙が入っている。一応もらったものなので、ドレスは売っても手紙は持ってきていた。
取り出してしわをのばし、見比べる。
その筆跡は見事に同じだった。
「ア、アマーシさま⁉」
「正解! 正しくはアマーシという人物を演じていた、だけどね」
蜘蛛好き青年は偽物だった⁉
というかそもそも男ですらなかった⁉
ミルティは混乱しながら、マシューと手紙とを見比べるのだった。




