はやい再会
「彼がご迷惑をおかけしたようで、すみませんでした」
「ううん。みんな大丈夫だったんだもの、平気よ」
「助かりました。彼が運んでいたのは、北の銀脈で採れた銀なのです。こちらで採れる銀と比較するため、陛下の許可を得て運ばせていたのです。少量ですし、ひとりのほうが目立たず運べるかと思ったのですが……彼には厳重に注意をしておきましたので」
「ええ、将来立派な官吏になってくれるといいわね」
ミルティの言葉にトルクがうなずく。
「ところで、こんな僻地までいらしたのにはわけがあるのでしょう? ご用件を窺いますよ」
優しいトルクが訊いてくれたのをいいことに、ミルティはこれまでのやりとりを追って話した。
「それは難儀でしたね。私でよろしければ、いくらでも相談に乗りましょう。しかしシャン、君が傍にいてどうしてこんなことになるんだい? 望まぬ結婚なんて、女性を不幸にするだけじゃないか。君は彼女がそんな目にあってもいいと思っているの?」
「いや……俺はそれがミルティの幸せだと思ったまでだ。相手は王子だぞ? 一時の感情に流されず、将来のことも考えれば自然と答えは出るだろ」
「それじゃあ幸せになれないんだよ。そうですよね、ミルティ王女」
「ええ、そうよ」
ミルティはトルクの言葉にしっかりとうなずいた。シャンは眉をしかめ、厳しい顔をしている。
「しかし、王女をむざむざと不幸にするような結婚を、陛下がお認めになるとは思えない」
苦悩の滲んだ表情で力なく呟く。
「シャン、君は王女にどうしてもらいたいんだい?」
「さっきから言っている。幸せになってくれたらそれでいいんだ」
「なるほど。では、そのためなら君は尽力できるね?」
「もちろんだ」
シャンの返事を受けて、トルクは深くうなずいた。
「シャンは尽力してくれるそうですよ、王女」
「ありがとう、トルク。わたし、幸せになれるようがんばるわ!」
「ええ、私もそ貴方の幸せを願っています。……失礼」
トルクはさらりと流れるように動くと、ふわりとミルティを抱きしめた。
「大丈夫だよ、ミルティ。私にはずっと昔からどうすれば君が幸せになれるのかがわかっていた。それに気づいていなかったのは当人たちだけだ。でも、ここまでくればあと一息だね。応援しているよ」
耳もとで囁かれたトルクの声は、格式ばった物言いではなかった。
昔、一緒に遊んでいたころと同じ口調。
シャンは公式の場に出るとき以外は、ミルティに対して普通に接するけれど、トルクは他の人たちに聞こえないところでないとミルティの名を呼び捨てることはない。
「わたしは間違っていないかしら?」
「ああ、それは自信をもって言えるよ」
ミルティはトルクの言葉に安堵した。
間違っていない、そう言ってもらえたことで、肩がふっと軽くなった気がした。
やっぱりトルクに会いに来てよかった、とミルティは思う。
それにしても、トルクは昔からわかっていたと言った。それはどういう意味だろう、とミルティは心の中で首をかしげる。
ミルティは昔からトルクが大好きで、いつもトルクのまわりをうろうろしていた。
トルクが初めてシャンを連れてきたとき、なんて愛想のない人なんだろうと思った。
けれどいつも一緒にいるうちに、いつしかシャンはミルティの人生に欠かせない人になっていた。
傍にいることが当たり前で、なかなか気づかなかったけれど。
トルクはミルティの自身すら気づいていなかったその気持ちを、以前から察していたということなのかもしれない。
「こらトルク、僕は寛大な婚約者じゃないからね。浮気は許さないよ?」
物思いにふけっていると、突然、新たな声が投げこまれた。
ミルティは大慌てでトルクから離れる。
「マシュー!?」
シャンが現れた人物の名を呼んだ。
「やあ、また会ったね」
そこには満面の笑みをたたえたマシューが立っていた。




