到着
「こんにちは、ミルティ王女。そして王女の警護をおつかれさま、西の宮警備隊長シャン・ルーナ」
ようやく目的地に着いたミルティたちを、トルクはいつもの笑顔で、いつものように多少からかいを含みながら迎えた。
癖のある栗色の髪は柔らかく、茜色の目は優しく細められている。
西の宮というのは、ミルティが住んでいる離宮のことだ。
ミルティはラクラーナ王国の第四子、第三王女である。
蜘蛛好き青年ことアマーシとの婚礼を勧めているのは、ミルティの両親――つまり国王と王妃だ。
「どう? 銀はたくさん採れた? 一攫千金を狙ってるんでしょ?」
しばらくは抱かれて運ばれたミルティだったけれど、さすがに途中でもう大丈夫だからと説得して、自分の足で歩いてきた。
「ミルティ、またそんな誤解を招く表現を。私は陛下のご命令で銀の採掘状況を調査しているだけですよ」
「そうだったの? わたし、銀を掘ってるって話しか聞いていなかったから、てっきり……」
トルクは官吏だ。
まだ二十歳前の青年だけれど、出世街道まっしぐらだと評判だ。
半年前までは西の宮から近い王宮で働いていたのですぐに会えたのだけれど、銀が見つかったときにレッツェル山に派遣された。
それ以来一度も会っていなかった。
「全くのはずれというわけでもありませんけれど……」
「トルクさま、ではわたしはこれで……ああっ!」
苦笑を浮かべるトルクの背後から現れ、ミルティたちを見て驚きの声を上げたのは、なんとデオ・ゴーネルだった。
「王宮からの使いだと言っていたからもしかしたらとは思っていたけれど、やっぱりここに届けるための荷物だったのね」
「ええ、そうなんですよ。その節は大変お世話になりました」
ぺこりと頭を下げるデオ・ゴーネルは、ついさっきまで別室にいたので先ほどのトルクの挨拶を聞いておらず、まだミルティが王女だということに気づいていないらしい。
普段から西の宮に引きこもっている少し変わり者の王女、と噂されているのミルティはほとんど人前には姿を現さないので、顔を知っている者は少ない。
更には町娘の姿をして乗合馬車に乗っていたのでは、それが王女だとは思いもしないのだろう。
「どういたしまして」
「では、私は急ぎ王都に戻らねばなりませんので、これで」
トルクに挨拶をするデオ・ゴーネルの姿は、一人前の役人のように見えた。
ミルティたちにも一礼して、去ってゆく。
今度はなにごともなく無事王都へ帰れるといいわね、とミルティはデオ・ゴーネルの旅の安全を願うのだった。




