気づいた想い
「おはようー、おふたりさん」
マシューが朝から元気いっぱいに階段を降りてくる。
「おはよう、マシュー」
ミルティとシャンは一階のロビーで出かける準備を整えているところだった。
「もう行くの? あ、もしかして僕にはなにも言わずに発つつもりだった?」
「先を急ぐんだ。会えたら挨拶くらいしようとは思っていた。じゃあな」
シャンがそっけない挨拶を済ませる。
「またねー」
マシューがひらひらと手を振る。
ミルティは笑顔を返して宿屋をあとにした。
外ではシャンが足を止めて待っていた。
金髪が太陽の光を反射して輝いている。ミルティは思わず目を細めた。
「行くか」
「ええ」
ふたりは並んで歩き出す。
今から向かえば、昼前には目的地にたどり着けるはずだ。
天気は良好、気温も熱すぎず寒すぎず、ちょうどよい。
シャンはミルティの歩調に合わせて歩くので、ミルティに負担がかかることはない。
のんびりとした道行きだ。
ミルティは昨夜のことを思い出していた。
特になにもなかった。
ただ単に同じ部屋で夜を明かしたというだけだ。
ミルティは「おやすみ」と挨拶をしてすぐベッドにもぐりこんだし、シャンもソファに横になっていたようだった。
ただ静まり返った部屋の中で、互いの身じろぎをする音や吐息がいやに大きく聞こえた。
ミルティはシャンのたてる微かな音に耳を澄ませているうちに、いつしか眠ってしまっていたのだ。
朝起きると既にシャンの姿は室内になく、疲れを微塵も感じさせない顔で廊下に立っていた。
ミルティはそっとシャンの横顔を盗み見た。
シャンはわたしのことをどう思っているのだろう、とミルティは考える。
「なんだ?」
視線に気づいたシャンがミルティの顔をのぞきこむ。
「なっ、なんでもないわ」
シャンの顔が迫り、ミルティの心臓が早鐘を打つ。
灰青色の瞳に、自分が動揺していることを見抜かれそうで、ミルティはうつむいてしまう。
「しんどいのか?」
「違うわ」
「辛くなったら言えよ」
ミルティがうなずくのを確認して、シャンは前を向く。
そしてミルティはまたシャンの横顔を見上げた。
見慣れた顔のはずなのに、つい見とれる。
整った横顔。生真面目な表情。輝く金の髪に、灰青色の瞳。形のいい耳と、すっとした顎の線。
手のひらはごつごつとしていて大きくて、見た目よりも厚みのある胸がたくましい。
早まった鼓動は少しも落ち着く様子をみせない。ミルティは苦しくて思わず足を止めた。
「おい、やっぱりしんどいんだな?」
「違うの」
「違わないだろ」
言うなりシャンがミルティを抱え上げた。
「ちょっと、シャン!」
「大人しく抱かれてろ。疲れが出たのかもしれない。トルクのところまで、俺が運んでやるから」
そんなの心臓がもたないわ!
重ねて抗議しようとしたけれど、心臓が口から飛び出しそうで満足に声も出せない。
ただ顔が真っ赤に染まっていることはミルティにもわかっていた。
どうしよう、わたし……。
ミルティは抱かれたまままぶたを閉じた。
シャンに、これまでと同じように接することができない。
気づいてしまった自分の想いに、ミルティは戸惑っていた。




