盗み見
気を張って弱音を吐かないようにしていたけれど、本当は怖かった。
すごすごと帰るなんてできないと意地を張っていたけれど、自分は本当にそこまでしてトルクに会いたいのかどうか、わからなくなってしまっていた。
トルクは絶対にミルティを受け止め、優しい言葉をかけ、慰めてくれる。
昔からそうだし、そうでなかったことは一度もなかった。
告白したミルティにごめんね、と告げたとき以外は。
あの優しい笑顔で「大丈夫だよ、ミルティ。全て上手くいくから」と言ってもらいたかった。
それなのに今、ミルティは望むものをシャンから与えられている。
子どものころはいつもミルティの味方だったシャンは、成長してミルティの父に仕えるようになってから、ミルティではなく父の味方になってしまった。
それまではミルティの気持ちを汲んで色々と協力してくれたのに、最近では「仕事だから」の一言でミルティの意志を挫くようになった。
ミルティから一定の距離を置いて、生真面目な顔で接することが多くなった。
そしてわたしと蜘蛛蜘蛛青年との婚礼を奨励している。
ミルティはそんなシャンがもどかしくて、苛立たしくて、そして寂しかったのだ。
「ミルティ!?」
シャンがミルティの涙に気づいて目をみはる。
驚いたシャンが、ミルティの頭の上から手をどけてしまったのが、残念だった。
「シャン、中に入って……」
「えっ!?」
「ソファがあるの。だからせめてそこで横になって体を休めて。じゃないとわたし、寝られないわ」
「いや、でもそんなことが噂にでもなったらおまえの評判に瑕がつく。それはできない」
シャンの堅物さ加減は筋金入りだ。
「誰にもわからないわ、きっと」
「だが……」
「できないのなら、わたしも廊下にいる」
「馬鹿言うな」
「どっちがいい?」
ミルティはぐいと涙をぬぐうと、涙のあとが残る顔でシャンを見上げた。
「どっちっておまえ……」
「どっち?」
ミルティが目を眇めると、シャンが深々と嘆息した。
「……わかったよ、俺がそっちに行く」
そう言ってシャンはするりとミルティの部屋の中に入り、パタンとドアを閉めた。
その様子を見られていることに、ふたりは全く気づかなかった。




