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いい人とわるい人

 確かにきれいな人だとは思っていた。

 けれど声が女性にしては低いし、なによりさきほどの立ち回りは女性とは思えないほど見事なものだった。

 だから、もしかしたら女性かも、などという疑いは、いつの間にかすっかり消え去っていたのだ。

 それなのに、ここにきて――。


「じょ、女性っ!?」

「そう。だから別に構わないでしょ? 同じ部屋でも」


 確かに、同性同士で同室というのなら、許容されるような気がする。

 ミルティは案外いい案かもしれない、と思い始める。

 マシューの腕が立つのは先ほどの騒動で実証済みだ。


「いや……女性だとしても、やはり出会ったばかりの者と同室というのは許可できない」   


 けれどマシューと同室、の提案に傾き始めていたミルティの気持ちをばさりと斬り捨てるように、シャンが言った。


「ええ!? シャン、なんでなの?」

「こんなことを言うのは失礼だと思うが……」


 シャンがちらりとマシューに視線をやる。


「僕は気にしないから、続きをどうぞ」

「信頼できる人物だと判断するにはまだ時間が足りない」

「つまりシャンは、マシューさんがわたしに危害を加えるかもしれないって、疑ってるの?」

「端的に言えば、そうだ」

「ひどいわ! ここの宿だって、マシューさんが教えてくれたのに!」

「だからこそだ。ここが、なにかを企む者とつながっている宿で、マシューはここに狙い目の得物を連れこむ役を請け負っていて、夜中侵入者によっておまえが連れ去られる――ということも、考えられなくはない」   


 ミルティは信じられない、とシャンに非難の目を向ける。


「なんてこと言うの! マシューさんに謝って!」

「いや。僕は構わないよ。続きを促したのは僕のほうだしね。それに、彼の考えも理解できる」

「マシューさん!」


 自分が疑われているというのに、なんていい人なんだろう!


「いいか、ミルティ。おまえは他人を信用しすぎる。それで痛い目にあったのを忘れたのか」

「あの人たちは悪い人だったわ。でもマシューさんはいい人よ」

「今、見えている範囲ではな。だが、悪い奴ほど、見せないところに悪意を隠しているものだ」

「それは……」


 確かに、ミルティに声をかけてきたあの男も、最初は親切な人に見えたことを思い出す。


「いい人か悪い人か。つまり信頼できる人間かそうでない人間か。それは簡単に判断できることじゃないんだ」

「でも、マシューさんは……」 

「ありがとう、ミルティ。僕を信じてくれて嬉しいよ」


 マシューは気を悪くした風でもなく、ミルティに笑いかける。


「いいえ。うちのシャンが不躾なことを言ってすみません」

「本当に気にしないで。君にとって勉強の機会になったのなら幸いだ。どうやらこれまでにいろいろあったようだけれど、確かに人を疑うことは大事なことだからね」

「理解してもらえて、助かる」


 シャンの言葉からは、当然のことを言ったまで、という気持ちが伝わってくる。


「さて、それじゃあ最初の問題に戻るけれど……。宿はここで、部屋は僕とミルティで一部屋ずつ、シャンは夜通し見張り。これで本当にいいのかい?」

「ああ、それでいい」

「よし。ご主人、お待たせして申し訳なかったね。その二部屋を頼むよ」 


 マシューが宿の主人と向き合い、手早く話を進める。

 後ろから見ると、その細い肩は、言われてみれば確かに女性らしく見える。

 けれど髪は短髪、加えて男装、しかもこの口調とあっては、男性と勘違いしても仕方がない。

 とはいえ、マシューが男性でも女性でも、いい人だというのは変わらない、とミルティは思うのだったが……。


 ミルティはすぐ傍に立つシャンを見上げた。

 シャンはいたって平静な顔で、手続きをするマシューの様子を眺めている。

 それにしても、シャンは本当に廊下で一晩を過ごすつもりなのだろうか。

 そんなことをさせたくはない。けれどシャンは、この部屋割りを譲らないだろう。


 どうしよう……。


 ミルティはひとつ、大きな息を吐いた。

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