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部屋割りと信用

「ありがとうございました」


 デオ・ゴーネルが深々と頭を下げる。

 鞄は御者を助けるときに投げつけてしまったけれど、中身は抜いてあった。デオ・ゴーネルは布に包まれた塊を抱いている。  

 乗合馬車はレッツェル山のふもとにあるレゴの町に停車していた。ここが終点だ。


「これからは気をつけてね」


 ミルティが声をかけると、デオ・ゴーネルはしっかりとうなずき、もう一度頭を下げると、町の雑踏の中に消えて行った。


「それにしても、彼がお役人さんだったとはね。さすがに僕たちとしても助けないわけにはいかない」

「ええ。お役目の途中で詐欺にあうなんて、とんだ災難よね」


 立ち寄った店で騙され、いつの間にか出来ていた借金のカタに、大事な荷物を取られそうになったらしい。

――という説明を、彼が持っている役人としての身分証が本物だったので、ミルティたちは信じることにしたのだ。


「さて、宿を探すか」


 シャンが橙色に染まる空を見上げて言った。ミルティもつられて空を仰ぐ。

 日暮れが近い。

 ここからトルクのいる所まではそう遠くないけれど、今からでは着く前に日が沈んでしまう。


「そうね」

「僕、いいところを知っているよ。案内しようか?」

「え、本当?」

「ああ。値段も手ごろだし、一階が食堂だから外に出なくても飯が食べられる。しかも美味い」

「怪しいところじゃないだろうな?」

「まさか」


 シャンの言葉を笑い飛ばして、こっちだよ、とマシューが歩きだす。ふたりはそのあとについて行くことにした。


 宿屋まではすぐだった。


 マシューが宿屋の主人と話をつけて、宿帳に名前を書き込んでいる。

 ミルティは見るともなく宿帳に書かれた名前を――その筆跡を見てあれ? と首をかしげた。

 この筆跡、どこかで……。


「二部屋空いているらしいけれど、どうする?」


 主人と話していたマシューが振り返り、ミルティは思考を中断させる。


「二部屋?」

「そう。僕と君と君の連れの彼とで二部屋。君たちが同室でいいなら問題は解決。それが困るのなら、僕は別の宿を当たってもいい」


 シャンと同じ部屋に泊まる!? 

 子どものころ一緒にお昼寝をしたのとは訳が違う。ふたりとも結婚適齢期なわけで、もしなにか間違いが起こったら……。 


 などと考えているうちにふと、そういえばシャンの恋愛話を聞いたことがないことにミルティは気づく。 いい人がいるというような噂話すら耳にしたことがない。


 仕事が忙しくて、そんな時間がないのかしら?


「ここでいいんじゃないか?」


 ミルティが色々と考えている間に、シャンがあっさりと答える。


「そんな、ちょっと待って!」

「安心しろ。俺は廊下にいる」

「え、廊下?」

「ああ。俺の部屋は必要ない。俺にはおまえを守る義務があるんだ。部屋で寝ている場合じゃないからな」

「それは……」


 同じ部屋なのは困るけれど、シャンをひとり廊下に残して自分だけのうのうと寝るわけにもいかない。


「そっちの事情は知らないけど、なんなら僕はミルティと同じ部屋でもいいよ?」

「そんなことさせられるか!」


 シャンが声を荒げる。


「どうして?」

「なにを当たり前のことを。若い男女が同じ部屋で一晩を明かすなど……」

「僕、女だけど?」

「え?」

「女」


 マシューが自分を指して言う。

 ミルティとシャンは、言葉を失ってマシューを凝視した。

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