逃走
シャンが言われるままに剣を地面に放る。
「気まぐれを起こしたのが運の尽きだったな。命は大切にしたほうがいいぜ?」
「運動不足だったからね。少しは体を動かさないと」
マシューが相変わらずのおどけた口調で言い返す。
シャンは無言でただ御者を捕らえている男をにらみつけている。
今、連中の注意はシャンたちにふたりに向けられている。
気づかれないように御車台に出たミルティは、御者を捕らえている男に向かって鞄を投げつけた。
男がとっさにそれを払いのける。
そこに隙ができた。
御者は素早く逃げ出し、マシューがどこからか取り出したナイフを投げつける。ナイフは男の手のひらを貫き、悲鳴が上がった。
御車台の上のミルティが逃げてきた御者に手を差し伸べるが、そこに手のひらを貫かれた男が駆け寄る。
手のひらに突き刺さったナイフを力任せに抜くと、そのナイフで御者に切りかかった。
が、既にシャンは剣を拾い駆け出していた。
傍らをマシューのナイフが追い越す。ナイフが男の足に刺さり、男がたまらず膝を折る。
そのあいだに御者は御者台に上り、手綱を引いていた。
馬がゆっくりと走り出す。
シャンが御者に切りかかった男の手を蹴り上げた。ナイフが手を離れる。
残るはひとり、首領の男だけ。
マシューが新たに取り出したナイフを立て続けに投げる。
いったいどこにそんなにもナイフを隠し持っていたのかとミルティが驚いているあいだに、シャンは落馬した男に当て身をくらわせ、気絶させていた。
走り出した馬車の荷台にシャンが飛び乗る。
マシューもいつの間にか乗り込んでいた。
「た、助かった……」
馬車の中でうずくまっていたデオ・ゴーネルが、深い深い安堵の息を吐く。
「いやあ、なかなかどうしていい運動になったね」
マシューがひょうひょうと言い、シャンが「この程度では、準備運動にもならない」とこぼす。
「でも、ふたりのおかげでみんな無事よ。ありがとう」
ミルティは感謝の気持ちをたっぷり込めて、お礼を言った。
こうして一行は無事、荒くれ者たちの手から逃れることに成功したのだった。




