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乱闘

「この馬車に、デオ・ゴーネルなる人物は乗っていない」


 馬車を降りたシャンが、馬上の男に向かって断言した。


「革の鞄を抱えている。栗色の髪と瞳の痩せた男だ」


 ミルティは幌に開いた穴から外の様子を窺っていた。

 連中の身なりはあまりよくない。

 腰には使い込まれた大ぶりの剣を下げ、頬に大きな傷跡のある男がツァルを見下ろしている。


「ああ、残念だが。ここにいるのは俺の主人と身なりのいい若い男だけだ」

「そんなはずはない。御者は確かに乗っていると言ったぞ」

「いないものはいない。そもそも、その男とあんたたちはどういう関係なんだ?」

「話す必要はない。中を改めればすむ話だ。おい!」


 男が仲間に向かって顎をしゃくると、馬から下りて待機していた小柄な男が馬車に近づく。

 傷跡をもつ男が首領のようだ。シャンはそれを黙って見送っている。


 馬車の周囲をぐるりと囲むように男の仲間が待機していた。

 御者を御者台から下ろし、見張っている男がひとり。

 小柄な男の後方に待機している短髪の男がひとり。そして馬車を挟んでシャンたちの反対側に小太りの男がひとりいる。


 小柄な男が剣を抜き、幌を切り裂こうと振り上げた。

 その瞬間、マシューが短剣を放っていた。幌を突き破って飛んだ短剣が腕に突き刺さり、小柄な男は悲鳴を上げて剣を取り落とす。


 それと同時にシャンは目にも留まらぬ速さで剣を抜き、馬上の男に斬りかかっている。

 剣を吊るしていた紐が切られ、大剣が落ちる。シャンが素早くそれを取り、鞘を払った。 

 首領の男が、二本の剣を手にしたシャンを見下ろし、口の端を歪める。


「なんのつもりだ?」

「ただの気まぐれだ」


 言い捨てると、シャンはきびすを返した。

 荷台から放たれた二本目の短剣は小柄な男の後方にいる者を狙ったものだったが、それは剣で払い落とされている。


 マシューが荷台から飛び降り、腕に短剣が刺さったままの小柄な男が取り落した剣を拾い上げる。

 その背後に短髪の男が迫っていた。

 シャンがマシューと短髪の男との間に滑り込み、一本の剣でその攻撃を受け止める。

 後ろに跳びすさろうとした男の太ももを、もう一本の剣で斬りつけた。

 更に体勢を崩した男の剣を払う。男の手から剣が吹っ飛んだ。


 すごい。


 ミルティはシャンの立ち回りに目を奪われていた。

 かなりの腕前だということは知っていた。けれど実戦を見ることはめったにない。      


 その隙にマシューは馬車の反対側から何が起こったのかと姿を現した小太りの男へと素早く駆け寄り、斬りかかっていた。

 男の肩が切り裂かれる。


 あとひとり。


「そこまでだ!」


 そのとき、鋭い声が響いた。

 御者が喉もとに剣をつきつけられている。


「残念だったな。剣を捨てろ」


 首領の男がゆっくりと馬を歩かせてシャンたちに近づいた。

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