本当に存在した異世界
サイクと名乗った自分より幾分か小柄な青年の後ろをえっちらほっちらと少し駆け足でついていく。
案内を頼んだはいいが、さっさと案内したいとばかりに先をいそいでるぞこやつ。
「ほら、あそこ」
草原からだんだんと離れて舗装されている道に街灯らしきものがあちこちに立っている場所に出た。
街の入口にはアーチ型のレンガが積み重なっていて何か文字が書いてある。
「アルファベットじゃない・・・」
そうぽつりと呟くとサイクはあとは道なりだからと片手を上げて去って行ってしまった。
少しだけ寂しく思うが仕方がない。街を探索してみよう。
アーチをくぐるとまるでどこか外国の海辺の町に見えた。
明らかに日本とは違う建物、そしていたるところに書いてある文字。
そしてここからでもよく見える大きな帆が張ってある軍艦のような船。
「マジに異世界?」
入口でぼーっとしてると何人か客寄せのお姉さん達が寄って行ってと話しかけてくる。
その人たちを観察するもありえない髪色のパレード。ちゃんと自毛だ。皮膚から生えてる。
ゴーラという町に入って3歩目でもう分かってしまった。
「私が迷子か・・・・」
迷子とわかったら仕方ない。黄昏ている場合でもない。
とりあえずこの街を回ってどうやって生きていくか模索しなくては。
だって、とりあえず生きなきゃ大好きな睡眠を貪れん。
と、決意したはいいものの。
「眠い」
港近くの通りをトボトボと眠たそうに歩く。
だっていい天気だ。ぽかぽかだ。
よし、模索は寝てからにしよう。
あ、あの木箱の横になにやらもふもふしたのがある。
「お、ちょうどいいじゃん」
毛長の一人がけソファーのようなこんもりと大きな丸い毛玉があり、
そこに座って丸くなるとすぐに瞼が降りてきた。
「こういう素材のソファーがあるなら異世界も悪くない・・・・」
ふかふかの感触に惰眠を貪っていた明は甲高い音に目を覚ました。
「ふざけんじゃないわよ!」
バチンという音で更に頭が冴えてくる。
どうやら目の前で痴話喧嘩が行われたようだ。
女は男を殴って去っていった。
「いててて・・・何も殴んなくても・・」
見るからにイケメンなおじさまが頬をさすっている。
目の前で繰り広げられたから思わずじっと見てしまった。
「おい、見せもんじゃねーぞ、坊主」
「目の前でやるほうが悪いぞ、ちょび髭」
性別を間違えるおやじはイケメンでもちょび髭でよしだ。
そういうと、そのちょび髭はしかめっ面をして屈んで視線を合わせた。
「で、なんでムーの上で寝てたんだ?それお前のムーか?」
「ムー?ムーって??」
「お前が乗ってる生き物だろう」
「え」
長い毛をわっさわっさとかき分けると、目が出てきた。
「うお!お前!乗った時にソファーじゃないって言えよ!いや、言えないか」
ああ、驚いた。こんな動物いるんだ。
しっかし触り心地いいなぁ。
「おい、坊主。ムーにどうしてここにいたのか聞いてみろ。普通はこんな街の中にいないはずだ」
偉そうなちょび髭だな。自分で言えよいや、言えないか。
「聞けるわけないだろ。話さないんだし」
「話せるむー」
わっさわっさとムーを撫でていた手を止める。
・・・・え?
登場人物2人目。ちょび髭。名前は次回。