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その後の葵の働きは魔腐との戦いを至近から見た事がある職員が人生の中で最も恐怖を感じたと語るほどだった。 複数人の一斉射撃、鎮圧ガス、果ては自律戦闘ロボによる駆逐者反乱防止システムによる攻撃を全て真正面から防ぎ、必要なだけの反撃を繰り返した。
(……駆逐者反乱防止プログラムを真正面から破られるって、それはシステムとして不完全じゃないか? いや、俺は破れるとは思えないが)
彼方は車内でそんな事を考えながら外を眺めた。
魔腐の攻撃の影響が比較的に無い地域ではあるが、戦前と比べてやはり活気という物が足りていないように感じる。 激戦区ですら整備は終わり、人類の全盛期の風景を取り戻している。 が、圧倒的に足りていない。 無理に世界を復元した結果、直せる物を直した結果、人という戻らない物のダメージを見せ付けられた気分だった。
果たして、俺のやった事に意味はあったのだろうが。 それ以上に、俺の姉ちゃんはやった事に意味があったのだろうか。 魔人の発生の原因は未だに謎だと言う、そんな終わらない戦いを続けた結果何が残ると言うのだろうか。
そんな無力感に彼方は襲われた。
『彼方、大丈夫ですか?』
アリスの心配する言葉に彼方はようやく我に返った。
「ああ、大丈夫だよ。 気にしないでくれ」
「彼方君、君の言いたい事もわかる」
自動運転機能をせめてもの反撃という事で封じられた結果、運転する事になった葵は独り言のように呟いた。 その言葉は自分に言い聞かせるようでもあった。
「君のような若く未来のある少年を戦いに駆り出さないという結果にはとても不甲斐無さを感じている、これは私達の世代の不始末だね、私達を憎んでくれて構わない」
それでも、と続ける。
「そんな不甲斐無い結果はこれ以上続けたくない。 次の世代、次の次の世代まで続けば人類は魔腐を滅ぼしたとしてもその後同じ道を辿るだろう、この街がそれを表している」
活気の無い、ただ生きるためだけに生きる生産性の無い文明を見て呟く。
『蒼創彼方よ、葵の言う不甲斐無さは吾輩も感じている。 が、その恥辱にも耐えて言おう。 戦ってくれ、吾輩達の不甲斐無さを貴様が感じないように』
掃滅銃、クリームは若者を諭すような言葉遣いで彼方に話しかける。
「……安心しろ、俺がここで投げ出すなんて無いさ」
(そう、これは俺の為に戦うんじゃない。 かといって世界の為に、罪の無い子供達を救う為でも無い。
これに信念を賭して、死んでいった俺の前任者で姉、蒼創行方が間違って無かったって証明するためだ)
その心の中の決意をアリスは聞いていた。 話しかけられはしなかった。
「さて、そろそろ彼方君が来たかった場所だ。 そんなに考えているなら全部吐き出してあげなよ、行方ちゃんはそれを喜ぶよ」
彼方は再び窓の外に目を向け、目的地を確認した。 少し、気が重くなった。