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20年前、2018年に突然発生した特異物体『魔人』。
人の形をした禍々しい何かは文明社会へと勝負を挑んだ。
一撃で戦車を屠り、機関銃の猛攻を凌ぎ、空を制した。
何より、見るだけで人の心を毒し戦う気力を奪うその姿に人は蹂躙されていった。
世界中で同時に発生した魔人の同時侵攻により、人はかつてない程に滅亡へと近付いた。
従来の兵器では歯の立たない存在である魔人に小国、大国関係無く軍備は崩壊した。
が、そこで人類が滅びなかった。
『掃滅銃』、魔人と同時期に発生した特異物体だ。
人の脳内に響くその声は持ち主を導き、魔人への戦いを促した。
戦闘時における脳内処理速度の増加、並びにそれに耐えきれる肉体、そして各掃滅銃オリジナルの能力を手にした持ち主を追い詰められた人類はこう呼んだ。
駆逐者と。
『などと、彼方はこんな常識的な事も忘れて戦いに挑んだのですか』
蒼創彼方の脳内に、掃滅銃『アリス』の声が響く。
「堅い事言うなよ、しっかりと魔腐は駆逐しただろ?」
責められているのを実感しているのか、自分のほっぺを申し訳なさそうに掻いている。
『ええ、駆逐しました。 しかし、まさか駆逐するのがそのような綱渡りの上で行われてるとは思っていませんでした。 魔腐の習性も理解していなかったのですよね?』
「う……」
『なんのために座学があると思っているのですか、戦闘の才能だけで生き残る事なんてどんな天才でも出来ないのですよ』
「はい……」
魔腐対策室・極東支部。
蒼創彼方の初任務、それを遂行し報告に行く途中で既に説教を受けた彼方はげんなりとしていた。
(室長にはもっと説教受けるのか…… 逃げだしたらばれるのかな?)
『仕方ないです、これから空き時間は全て座学のおさらいになるのでしっかりと聞いていてください』
「ん、アリスって勉強出来るのか?」
何気無く放たれた彼方の一言はアリスのプライドに触れた。
『掃滅銃をなんだと思っているのですか、授業中にひたすら女性教諭の肉体の脳内でいじり回していた彼方と私の学力の差はそれこそ月とスッポンという物です』
「えぇと、アリスさん?」
『私は駆逐者の心得全121条全て諳んじる事が出来ますが彼方はどうです? そもそも駆逐者の心得というものを知っているのですか?』
「わかりました、わたくし蒼創彼方が悪かったです。 是非ご教授お願いします」
『いいでしょう、スパルタで行きます』
どこか勝ち誇ったような声で言った。