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入学式

『…続きまして、生徒会長挨拶。』


入学式…体育館に進行役の教頭の声が響く。


俺は早く終わらないか、ひたすら待っていた。


隣の席は真面目クンと真面目さんだ…一応俺も猫を被る。


何か面白いこと起きないかな…と、思っていた矢先にハプニングが起きた。


演壇に上がったのは…


…姉貴だった。


『生徒会長、副生徒会長が病欠のため、書記の猪狩美紗姫さんに挨拶をしていただきます。』


生徒会休みすぎだろオイ。


だが姉貴は眼帯をしている以外は歩き方も綺麗で頼れる姉貴といった感じであった。


…挨拶までは。


挨拶までは新入生席から「綺麗だ」とか「可愛い」とかの声が上がっていた。


…だが俺には分かる。


歩く時に片手が極端に握られてもう片方が極端に開く、テンパった時特有のクセが出ていた。

そして案の定、演壇についてから大変なことを言い放った。


「…光は我に!闇をも我に!我は混沌の使者・クイン=セレナーデ!汝らを我が眷属とし、今!栄光をこの手に掴まん!!」



…体育館が、凍りついた。


今ほどバイクを盗んででも逃げ出したいと思ったことはない。


姉貴もフリーズしていたが、そこで奇跡が起きた…いや、起こしたヤツらがいた。


「セレナーデ!セレナーデ!セレナーデ!セレナーデ!」


二年生席と三年生席の一部…おそらくオタク層からまさかのセレナーデコールが起きたのだ。


「どっ、どういうことだ!?あの訳わからないスピーチになぜ会場が!?」


「教師席や来賓席の一部まで!?」


左右の真面目クン真面目さんも驚いていた。


何より俺が驚きだ。


すると三年生席から1人の女生徒が教頭先生めがけて駆けた。


そしてマイクを奪い取り…


「主は仰った!私たちはあなた方の良いところも悪いところも受け入れる!そして最高の学園生活を送ろう!!と!」


新入生席が盛り上がる。


…ここってそれなりに頭の良い学校だよな?


さらにセレナーデコールが大きくなる。


「そうか!あのスピーチは俺達が気付けるかどうかを試していたんだな!」


「あの中二病キャラも同じような人を安心させるためのカムフラージュに違いないわ!」


真面目クン真面目さんは手遅れかっ…!


姉貴は続ける。


「汝らの魂は我が預かる!祈れひたすら、励め鍛錬!クイン=セレナーデの名の下に!!」


会場のボルテージは頂点に達し、スタンディングオベーションが起きた。


…何だこの学校は。






[ホームルーム]


「ほな、自己紹介いこかぁ。」


一年B組…俺の所属ホームルームだ。


担任の井口洋平が笑顔で言うと女子陣から歓声が少し上がり、男達から真っ黒い何かが立ち上った。


180はあるであろう長身に爽やかな笑顔を浮かべる、イケメンという種族であろう担任は名簿を見た。


「じゃあまず…朝倉礼侍(アサクラレイジ)クン。」


俺の2つ前の席の男子が立ち上がる。


「…朝倉礼侍、剣道部所属です。よろしく。」


身長は170センチの俺より少し高めで、色は黒め。


髪を短く切り、顔は古風…いかにも侍といった風貌だ。


「礼侍クンは剣道の推薦やったな。ほなら次、飯塚クン。」


前の席の真面目クンが立ち上がる。


ちなみに今は出席番号順に座っているので俺は一番廊下側の席の前から三番目にいる。


「…です。」


「よし、なら次は猪狩クン。」


もう俺か。


俺は立ち上がった。


「猪狩達也、趣味は読書。よろしく。」


そして座る。


よし、これなら名字以外であの破天荒姉貴の弟と思われる可能性は…


「美紗姫の弟やな。美紗姫がよー言っとったで、弟は料理上手やし面倒見が良いって。」


…120%の確率でしょう。


所々からクスクス笑いが漏れる。


「ひ、人違いじゃないですか?」


「達也ゆーとったしほっぺたのホクロもあるから多分同一人物やと思うけどなぁ…じゃ次、笠原サン。」


後ろの席の真面目さんが立ち上がる。


反論の余地もないだと!?


エセ関西人め…


そうこうしているうちにクラス30人の自己紹介が終わり…


「したら次の授業は校内オリエンテーリングやから余った時間はゆっくりしといてなぁ。」


エセ関西人はそう言うと教室を出ていった。


そして数人が立ち上がり、仲のよい友達のところへ行く。


「猪狩達也…だったか。よろしくな。」


そう言って机に突っ伏して寝かけてた俺に声をかけたのは朝倉だった。


「よろしくな、朝倉礼侍…だっけ。」


朝倉は中学でかなり名の知れた剣道選手だったらしい、というのが雑談をかわすうちに分かった。


「…で、本当なのか?あの生徒会書記が達也の姉というのは。」


「まさかそんなはずが「(ガラッ)我が眷属よ、エネルギーコアを間違えてしまっていた。」」


後ろのドアからだ。


「達也、あれお前の姉さんじゃ…」


「ワシャ知ランケェノゥ」


「カタコトの広島弁になってるぞ。」


「いたか我が眷属よ。」


いつの間にか後ろに回り込まれていたようだ。


とりあえず他人を装っておこう。


「あっ!さっきスピーチしてた人ですよね!」


「何を言っている我が眷属よ。我がエネルギーコアが汝用のであったのだ。我が愛しき眷属が愛する姉がトマ…太陽の果実嫌いと知っていて太陽の果実を入れるはずがない。」


「早弁を謀るな!好き嫌いをするな!ブラコンに間違われる形容詞をつけるな!はっ!?」


辺りを見回すと周りは色々な表情を浮かべていた。


ジェラシー、禁断の愛!?、やれやれ…、で18:10:1ってところか。


ちなみにやれやれは礼侍だ。


「選べ、お前の弁…エネルギーコアを私のと替えるか、私のエネルギーコアをお前のエネルギーコアと替えるか」


姉貴が迫ってくる。


に、逃げ場がねぇ…


「購買で何か買えば「[被弾の有田]を買ったから金がない。」どちくしょー!!」


被弾の有田…野球マンガ。


「頼む、腹が減って死にそうなんだ。何か恵んでくれ!」


トマト食えよ…。


ってか空腹のあまりキャラが崩れてる…そういえば朝めっちゃ慌ててたな。


おそらくスピーチを急に頼まれて焦ってたんだな…仕方ないか。


俺は弁当を鞄から取り出し、姉貴に差し出した。


「貸し1。」


ぱち…パチパチパチパチパチパチパチパチ。


教室から歓声と拍手が起こる。


「すまない我が眷属、この恩は忘れぬ。」


そう言うと姉貴は去っていった。


「達也、お前…」


「弁当なんて購買で買えば良いからな。」


鼻がむずがゆくなる。


「…今日は入学式とホームルームとオリエンテーリング、教科書配布で午前中で終わるから弁当要らないって聞いてなかったのか?」


思考がフリーズした。


そして…俺のマヌケさと面倒見の良さから[けんぞクン]というニックネームがついた。


序章のちょっと前の話である。

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