第5話 願い
今回は少し長くなってしまいました。
おまけに本来の予定と大幅にずれてしまったため、サブタイトルすら変わる羽目に・・・・。
相変わらず未熟ですがよろしくです。
本当にいいのだろうか?彼女はそう思った。
あの後、私たちはまっすぐ宿へと帰った。宿に着くころには少し日が落ち始めていた。私が長の屋敷に戻れないことを言うと、彼は笑って「泊まっていきなよ。」と言ってくれた。
そのまま夕ご飯をごちそうになって、楽しくお話をした。彼は私のことをたくさん聞いてきた。好きなこと、やりたいこと、今までの生活のこと。
私が話している間、彼は何も言わずに聞いてくれる。話しやすかった。ついつい、いろんなことを話してしまう。そして彼は、話すたびに笑ったり悲しんだりとリアクションしてくれるのだ。そのたびに私は、彼のいろんな表情に見惚れてしまっていた。でも、
「私なんかが彼と釣り合うのかな?」
そう思うと、とても不安だった。彼は何でもできる。料理も家事も武術も、それに対して私は・・・何もなかった。何一つとして彼より優れているものも、彼と張り合えるものさえなかった・・・・・・。
気が付いたら寝てしまっていた。部屋を見渡してみる。・・・彼がいない。周りはすっかり暗くなっていた。私はあわてて外に出た。幸運なことに彼はすぐに見つかった。彼は外で月を見上げていた。
「明日だね。」
彼は何かに話しかけている。私はとっさに近くの木の陰に隠れた。・・・どうしてそうしたのか、わからない。
「明日やっと君に伝えられるよ。待っててね、――――。」
最後の言葉だけが聞き取れなかった。最後、彼は誰かの名前を言った気がする。
しばらくして彼は、持っていたものを月にかざしてこういった。
「明日が、運命の日だ。」
私はそれを呆然と見ていた。
「どうして・・・・?」
思わずつぶやいた。彼が持っていたものは、私の持っている両親の形見の指輪とそっくりの指輪だった。
同じ時間、月を見上げるもう一つの影があった。
「長、準備が整いました。」
「ご苦労。」
長の後ろには1000の影が並んでいた。
「さあ、明日だ。明日から私の野望が始まる。」
月を見上げるその眼には狂気が宿っていた。
まいったな。彼はそう思った。
翌朝、彼は予定通り村長の屋敷に行った。そこまでは普通だった。
「なんで、こんなに兵士が並んでいるんだよ。」
思わず笑ってしまった。隣にいる彼女は唖然として前を見ている。並んでいるのはおよそ1000人ってところかな?
「完全に殺す気してるな、これ。」
つぶやいた。彼女の肩がびくっと震える。くすっと笑いながら彼女の頭をなでる。
「ふぁ。」
場違いな声が彼女から漏れる。・・・かわいい。
そんなことをしているうちに村長が出てきた。
「おもてなしはいかがですかな?」
「う~ん。あんまり気分がいいとは言えないね。」
くすくすっと余裕を持ちながら答える。
「それはさておき、ずいぶんとうちの娘が気に入ったようですな。」
素直に頭にきた。どの口がうちの娘とか言っているんだ?お前が一体彼女に何をしてあげた?そう言いたくなる気持ちを抑えた。
「とてもいい子ですね。」
「はい。自慢の子なのですよ。」
・・・へぇ。
「ところで、お話というのは?」
「そんな大した話ではありません。ただそろそろこの村を離れようと思いまして。ごあいさつに。」
「そうですか・・・。それは残念です。」
長の眼が少し動いた。・・・何か合図したな。
「でも、その前に少しお話が。」
「・・・なんでしょう?」
少し間を置いた。
「あなたの自慢の娘さんを私にくれませんか?」
彼が何を言っているのか、わからなかった。娘さんをくれませんかって・・・それって・・・。期待に胸が膨らむ。でも、すぐにそれが間違いであることに気づく。彼の眼を見たらわかった。彼は選べと言っている。自分についてくるか、長についていくかを。そんなの・・・。
「あなたは娘を幸せにできる自信がありますか?」
長が言った。親のような優しい口調で。
「俺についてきたら彼女は幸せになれない、という自信がありますよ。」
あきらかに私に向かって言っていた。「俺についてくると、幸せにはなれないよ。それでもついてくるかい?」彼はそう言っている。私が言おうとしたことに気づいていて、もう一度よく考えろと言っている。
「それでは、あなたに娘はあげられませんね。ほら、お前も。こっちに来なさい。」
言われても足は動かなかった。
「あなたに誕生日のプレゼントを用意してあります。」
・・・・え?心が動いた。長が私に初めてプレゼントをくれると言ってくれたのだ。1歩、また1歩と長の方に歩き出す。彼は何も言わない。長と彼のちょうど真ん中で止まった。
「私はどうしたいのだろう?」
つぶやいた。まだ、心が揺れている。
「やりたいことを、したいことをすればいいさ。」
思い出したのは、昨日の彼の言葉。
「・・・私のやりたいこと。」
答えなんて、決まっていた。
私は迷わず、長の方へ向かった。長は、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
「今まで、ありがとうございました。」
頭を下げた。
「私はこれから彼とともに旅に出たいと思います。」
長は唖然としている。固まっている長を無視して、私はそのまま彼の元へと走る。
「私を一緒に連れて行ってください。」
迷わず言った。
「・・・こっちの道はつらいよ。」
「それでも、選びました。こっちの道になら、私のやりたいことが見つかると思うんです。」
はっきりと伝える。まだ、私のやりたいことなんてわからないけど、彼と一緒なら見つけられる気がする。すると、目の前に手が伸びてきた。
「これからよろしく。」
目の前には笑顔の彼の顔があった。
「はい!!」
握手しようと私も手を伸ばす・・・―――次の瞬間、私は彼に突き飛ばされていた。
ほんのわずかに遅れて、銃声が鳴り響いた・・・。
「この、外道が。」
今の弾は村長が撃ったものだ。村長から何かしらの攻撃は来ると思っていた。しかし、狙いは彼女だったのだ。何も迷わずに村長は彼女に向かって引き金を引いた。そのことに彼は強い憤りを感じた。
「この二人を殺せ!!」
村長が叫ぶ。同時に1000人の兵士たちが動いた。
「大地に眠りし母なる守り人よ!迫りくる魔の手よりかの者を守れ!―――守護矛!!」
出てきたのは純白の三つ又の槍。それを迷わず彼女の元へ投げる。彼女の脇の地面に刺さった槍はそこを中心として結界を築いた。これで、彼女の安全は保障された。
「・・・さて、逃げるか。」
未知の魔法に兵士たちは戸惑っていた。そして、結界を破れないと悟った兵士たちはまっすぐに追ってきた。・・・少しだけ、彼女と距離を離したい。これからおきる惨劇を彼女に見せたくはなかった・・・。しかし、
「え~~~。」
笑うしかなかった。いつの間にか目の前を兵士がふさいだ。数はざっと300人。どれだけいるんだよ・・・。
「逃げられはせぬぞ。」
兵士の群れの奥から長の声が聞こえてくる。・・・・しょうがないか。彼女には怖いものをみせることになるな・・・。怯えられるかもしれない。でも、それでも、彼女に死なれるよりははるかにましだ!!
「深淵の闇に沈みし漆黒の魔剣よ!希望の光に照らされし純白の聖剣よ!光と闇の力を持って我が前に渦巻け!!――――黒椿!――――白銀!」
左手には漆黒の剣が、右手には純白の剣が握られる。『2重詠唱』、2つの魔術の術式を1度に2つ展開する上級魔術である。加えて、彼が呼び出したのはそれぞれ光と闇の最強クラスの剣である。そして、それを平然とやってのける力が彼にはあった。
「殺せ!相手は1人だ!」
長が叫ぶ。・・・さぁ、絶望を見せてあげよう。
私は無力だ。彼女はそのことを思い知らされた。彼女の位置からはちょうど彼の姿が見れた。2本の剣を持っている。白い方は昨日のと同じ剣だ。でも、いくら彼が強くても、1人で1000人はどう考えても無理だった。
「私も一緒に戦いたい。」
でも、今私が出て行っても邪魔になるだけだし、そもそも戦えない。
「力が、欲しい。」
何のために?自分に問いかける。
「大切な人を。誰かを守るための力が欲しい。」
それはいつしか、彼女の「やりたいこと」に変わっていった・・・。
前半は次章の伏線です。
そうなってしまいました。OTZ
・・・こんなはずじゃなかったのに
一応次章で第一部終章予定です。
誤字脱字、感想などありましたらよろしくです。