第4話 白銀の花
読んでいただきありがとうございます。
今回から少しずつ戦闘シーンも入ってきます。
まだまだ未熟ですがよろしくお願いします。
つけられているな・・・。彼はそう思った。
「・・・3人か・・・・。」
そうつぶやいた。彼女の方を見る。じっと前を見ていて、何かを考えているようだった。
うん。今なら彼女に気づかれずに使える。本来この世界には存在しないはずの魔法を。気を左腕に集中させる。左腕に小さな光が集まる。やがて、光は小さな魔方陣になった。
「広域探査。」
小さくつぶやいた。目には見えない魔法陣が自分を中心として広がっていく。自分を中心に半径1キロ。その中にいるすべての情報を読み取ることができる。『広域探査結界』と呼ばれるこの魔法は高度な結界術の中でも比較的簡単な部類で主に戦場での敵の探索に用いられていた。
行き先に2人。左右に2人ずつ。すぐ後ろに3人。そのまた後ろに指揮してるやつが2人か・・・。・・・・・意外にいやがる。
小さな光が見えた気がした。・・・気のせいかもしれない。さっきからずっと彼のことを考えている気がする。だから見間違えたのかもしれない。そう考えていると、くすっと彼が笑った。
「あっ。」
「ん?どうかした?」
「な、なんでもないです。」
うつむいた。私はどうしたんだろう?気づくと彼を見ている。彼のしぐさを目で追っている。彼に興味を持っている。彼のことを知りたいと思っている。彼は今まであった人と全く違かった。こんな私と普通に接してくれる。対等な立場で話してくれる。優しくしてくれる。私は・・・・。
「あっ!」
「どうしたの?」
ふと、自分が一番大事なことを聞いてないことに気が付いた。
「私、あなたの名前をまだ聞いていません。」
「・・・・そうだね。でも、まだ教えてあげられない。」
「まだ、ですか?」
「そ。明日まで待って。明日が、運命の日だから・・・。」
「運命の日?」
何のことだろう?明日は村長と会う日のはずだ。それが、運命の日?そう考えているうちに公園についてしまった。
余計なことを言った気がする。自分でも無意識のうちに気にしているのだろうか?・・・らしくないな。彼はそう思った。明日、実際に道を選ぶのは彼女なのだ。彼にできるのは、彼女の選ぶ道と自分の道が同じであることを信じることくらいだ。
さて、お昼くらいはゆっくり食べられるだろう。あたりを見回す。・・・お昼くらい楽しくいかないとね。
「それじゃ、この辺でお昼食べようか。」
何もない公園だけど、草がきれいに整備されているな。芝生ってやつかな?これならこのまま座っても大丈夫そうだ。そのまま、座ることにした。
「はい。どうぞお召し上がりください。私はここにいますので御用があったらお申し付けください。」
そういって彼女はその場に立っていた。さもそれが当たり前であるかのように。
「君は食べないのかい?」
返事は予想できた。それでも聞いてみる。予想が外れてくれることを祈って。
「私はお昼を食べるなんて贅沢言いませんよ。」
この子は昼食を贅沢だと言うのか・・・。はぁ。
「いつも朝と夕方の2食だけ?」
「はい。多い時で2食です。」
・・・・多い時で2食って・・・。ということは・・・。
「いつもは村長に作る料理の残りでも食べてるの?」
「そうです。どうしてお分かりになったのですか?」
「・・・・・・。」
嘘だろ?冗談で言ったつもりだった。怒りを通り越してあきれてくる。こういうことは、向こう側の世界にいる『死神』のとき以来だ。・・・まったく。
「おいで。こっちに来て座りなさい。一緒に食べよ?」
「い、いえ。そんな、私なんて・・・。」
「・・・き・な・さ・い・。」
完全に強制だった。拒否なんてさせない。
「・・・・はい。」
彼女はそのままおどおどとした様子で隣に座ってきた。
「はい。あ~ん。」
お弁当の中の卵焼きをつかんで彼女の口へ運ぶ。
「え?ええ!?」
「あれ?卵焼き嫌い?」
「いいえ!大好き、ですけど・・・。」
「それじゃ、あ~ん。」
「で、ですけど・・・。」
まだ、抵抗するかこいつ・・・。
「あ~ん!」
「あ、あ~ん。」
・・・ぱくっ。・・・・やっと食べてくれた。
「~~~~~~~~~~~~!!!!!!」
・・・隣を見ると彼女がぼろぼろと泣いているのが見えた・・・。
「なにか悪いものでも入ってた!?」
「ちがうんです。ぐすっ。こんなにおいしいものを食べるの、初めてで。それにお昼に食べるのも初めてだから、うれしくて、おいしくて・・・・。」
これで、彼女が今までどんな生活を送ってきたかはっきりとわかった。だから、せめて今くらいは彼女の言う贅沢をさせてあげよう。そう思った。
「くすっ。このお弁当ね、俺の手作りなんだよ。」
「え、そうなのですか!?」
「うん。次はこっちも食べてみて?」
ハンバーグを食べやすそうな大きさに切って彼女の口に運ぶ。
「あ~ん。」
ぱく。
「はい。ごはん。」
ぱくっ。
「次はこっち。」
ぱくぱくぱく。・・・なにこれ?すっごく楽しいんだけど。
夢中で少女にご飯を食べさせた。
そして、あっという間にお弁当が空っぽになる。
「ごめんなさい!!お弁当全部食べてしまって。」
「気にしないでいいよ。それより、何か言うことない?」
「あ!ごちそうさまでした。」
うん。いい子だ。これが言えないやつが最近多いのだ。・・・うちのバカ共とか。
「はい。お粗末様でした。」
さて、そろそろお出ましかな?
少し遠くからおよそ10人の男がこっちに向かってくるのが見えた。
幸せだった。お昼からご飯を食べさせてもらって、彼に微笑みかけてもらって。おいしかった。今まで食べてきたどの料理よりもおいしかった。味付けもぴったりだったし、何より温かかった。食べ物の恵みに感謝を・・・。そういった、彼の料理に対する思いが伝わってくるようだった。この人はすごいな。彼女は自分がどんどん彼に惹かれていくのがわかった。
「少しだけ下がってて。」
今までとは違う雰囲気の彼の声が浮かれていた私を元に戻した。彼の視線を私も追ってみる。遠くてわからないけど、何人もの人がこっちに向かってきているのがわかった。しかも、武器を持って。
いつの間にか囲まれてしまっていた。不安になって彼の方を見る。彼は私の視線に気づいて、「大丈夫だよ」と微笑んでくれた。それだけなのに、すごく安心した。本当に大丈夫なんだと信じられた。だからここは彼に、彼の行動に身を任せよう。そう思った。
「あんた。最近来たっていう旅人さんだろ?」
「そうだけど?どうしたの?」
「俺たち、貧乏でさー。お金に困ってんだよ。めぐんでくんね?」
「そういうのは、武器をしまってからいうんだよ~。」
彼は余裕そうにくすくすと笑っている。でも、男の人たちはそれが気に入らなかったらしく、
「いいからさっさと金出せよ!!」
そういって剣を彼の首にあてた。
「兄ちゃんもまだ死にたくないだろ?」
「・・・・・。」
少しの間。
「ねえ。これからつらいものを見せるだろうから、できれば目をつぶっていて。」
それは、私にかけられた言葉だった。すぐに意味が分かった。でも、私は首を横に振った。
「いいえ。大丈夫です。私はもう二度と目の前のことから逃げないと誓ったんです!」
両親が死んだ日。私は逃げてしまった。逃げて、自分の記憶を消してしまった。だから。
「もう、私は逃げません!」
はっきりと言った。彼は少しだけ私の方を見た。
「うん。わかった。」
「な~にこっちを無視して二人でいちゃついていやがるんだ!!」
男の一人が剣を振り上げる。
「―――――ここは霊山の頂。かの花が咲く地に他の花はなく、かの花が咲いた地に他の花なし。誇り高き孤高の花よ。我が元で咲き誇れ!―――白銀!!」
詩のような言葉とともに大きな光が辺りを包む。光が収まったとき、彼の左手には真っ白に輝く剣が握られていた。
「ぎやーーーーーーー!!!!!」
叫び声が響いた。さっき剣を振り上げた男からは、腕そのものが消えていた。
「き、貴様!」
残りの男たちが一斉に襲いかかってきた・
「光流第8番軌道――――白光神楽!」
彼が振るった剣の後を光の尾がついてくる。光が消える前には次の光が通っている。これをほんの一瞬のうちに何度も繰り返している。だから無数の斬撃が舞っているように見えた。ほんの一瞬のうちに男たちは全員・・・死んでいた。
私は、今の一瞬のことを見えてしまった自分に驚いた。人の死を両親以外では初めて見た。でも、そんなことは気にもならないくらい、彼に見惚れていた。彼の腕から剣が消える。少しの間だけ光の粒子が彼の位置とかぶった。かっこいい。そう思った。
・・・・今になってはっきりとわかったことがある。ほんの半日だけしか一緒にいないけど、それでも彼と歩いてお話をして、彼のいろんな姿を見て、そんな彼のすべてに惹かれていて、いつの間にか・・・・・私は・・・・
――――――――私は彼に、恋をした――――――
いかがでしたでしょうか?
今回から「あっち側」の世界のキャラの伏線を少し入れてみました。
第1部はあと2章くらいで終わる予定です。
感想、誤字脱字等ありましたらよろしくお願いします。