転生したらコンビニ弁当工場で働いていた
「剣と魔法のチート無双」を夢見た男が転生したのは、令和日本の過酷なコンビニ弁当工場だった——スキルは「海苔弁フィルム超速巻き」のみの主人公が送る、愛と彩りとから揚げのライン作業コメディ。
「はい次、海苔弁6000!」
工場長の檄が飛んだ。ばんじゅうを海苔弁のメニュー通りにパートのおばさんたちがライン脇に積んでいく。一番先頭のおばさんは、いつも通り若いもんはなっとらんだの腰が痛いだの、6000は少ない、不景気なのかの?だのいつも通り愚痴愚痴言っていた。先頭のトレー出しを任されたおじさんが炊きたて御飯の入ったばんじゅうの前にトレーを一枚ずつ剥がしながら置いていく。トレーは忽ちラインのベルトコンベアの動きに合わせている流れ出す。
ご飯均しの女子大生の手でたいらにされたご飯の上にスタンプの原理をしたような道具で醤油に浸かった鰹節を置いてゆく。「こんなもの、今言うエーアイ?に任せれば全部自動的にできる作業なのだろうにねえ」
白身魚のフライを置くだけのお婆さんはひたすら愚痴る。
「そこ、流れが遅れてるよ、ほら、サクラが入ってない。ライン止めるよう」
ライン長兼ラッピング担当の僕がコンベアの停止ボタンを押した。
ライン長兼ラッピング担当の僕がコンベアの停止ボタンを押した。
「ちょっと、梅沢さん! サクラ(桜漬け大根)のポジション空けちゃダメですよ! ほら、白身魚フライの横にピンクがないと、彩りが死んでクレームになるんですから!」
「ごめんねえ、若い店長さん。手がシワシワでさ、漬物が指に張り付いちゃって……昔は旦那に『お前の手は白魚のようだ』なんて言われたもんさね」
「今は白身魚のフライを手際よく載せるおばあちゃんですけどね!」
すささっ、と僕が素早くピンセットでサクラを補填し、再びボタンを押すと、コンベアはブーンと重低音を響かせて動き出した。
はぁ、と息をつく。
……そう、僕は転生者だ。
前世では「剣と魔法の異世界」に転生して魔王でも倒すのかなと期待していたのに、目覚めたら令和日本の過酷なコンビニ弁当工場、時給1150円のライン長だった。チート能力? あるわけがない。強いて言えば「海苔弁のフィルムを1分間に40枚巻ける」という、異世界では1ミリも役に立たない特技があるくらいだ。
「おい、そこのライン長! ぼーっとするな! 次は『特製から揚げ弁当』3000が控えてるぞ!」
工場長の怒声が響く。
「はいっ! 了解です!」
「全く、AIやらロボットやらが進化してるってのに、なんでウチの工場は『人間の手でから揚げを3個ジャストで置く』なんて職人技やってんだか……」
ご飯均し担当の女子大生が、スタンプ型の鰹節押し器をシャカシャカ動かしながらつぶやく。
「まあまあ、これが『手作りの温もり』ってやつだよ。AIにはこの、から揚げの大きいやつを密かに自分好みの弁当に忍ばせる『人情』は解らんからね」
白身魚のおばあちゃんが、ちゃっかり大きめのフライを自分の賄い用にキープしながらウインクした。たくましすぎる。
コンベアの先では、ちくわの天ぷらがまるでベルトコンベアのダンジョンを進む勇者のように、次々と流れていく。海苔の上に鎮座し、サクラのピンクと黄色い沢庵の彩りを添えられ、最後に僕の手によって透明なフィルムで美しくラッピングされていくのだ。
「よし、海苔弁6000、無事にコンプリートです!」
「お疲れー! じゃあ次はから揚げね!」
「おばちゃん、次はから揚げのサイズ選別、頼みますよ!」
「任せときな! 私の目ばかりはAIにも負けないよ!」
転生先が魔王討伐の旅じゃなくたって、世界を救う大冒険じゃなくたっていい。
今日も全国のコンビニへ、美味しいお弁当を届けるために、僕たちの「コンベアの戦い」は続いていくのだ。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
「異世界転生して無双……と思いきや、過酷なコンビニ弁当工場!?」という、ちょっとおバカで身近なコメディをお届けしました。
主人公の唯一の特技「海苔弁フィルム超速巻き」をはじめ、パートのおばちゃんたちや女子大生との和気あいあいとした(?)ライン作業の雰囲気を楽しんでいただけていたら幸いです。
AIや自動化が進む世の中ですが、最後はやっぱり「人の手と彩り」が美味しさを作る……のかもしれません。
また次の作品や番外編でお会いできるのを楽しみにしています!
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