第2話 地下の龍神
「ここよ。地下三階、湿気が溜まって霊脈が淀んでいる場所」
イオリが指し示したのは、看板のネオンが半分切れた雑居ビルだった。『占いの館・青龍』。安っぽい紫のカーテンの奥から、線香の匂いと……それ以上に強い、酒の匂いが漂ってくる。
「……龍神様が、こんなカビ臭い地下に引きこもって何を占うんだ?」
レオが鼻に皺を寄せ、カーテンを乱暴に引き開けた。
そこには、ジャージ姿で水晶玉を枕に昼寝をしている老人がいた。かつて大海を統べ、雨雲を呼んだとされる「青龍」の成れの果てだ。
「……あ? なんだよ、客か? 恋愛運なら『南東に吉』だ。帰れ帰れ」
「お久しぶりですね、青龍様。相変わらず、神としての威厳は塵ほども残っていないようで」
イオリの涼やかな声に、老人が片目を開けた。レオの金色の瞳と視線がぶつかる。
「……山犬のガキと、雪山の鹿か。何の用だ? 俺はもう、雨を降らす気なんてねえぞ。今はスマホ一台で天気予報が見れる時代だ、神の出番なんてねえんだよ」
「雨なんて求めてない。あんたの『神性』を借りに来たんだ」
レオが低く唸り、老人の胸ぐらを掴み上げる。
「俺たちは自分たちの神域を作る。あんたをその『主』として据えてやる。嫌とは言わせないぞ、じいさん」
「はっ、笑わせるな。神域なんてのは、清らかな水と土、それに人間の信仰があって初めて成立するもんだ。この排気ガスまみれの街のどこに、そんなもんがあるってんだ?」
イオリが、水晶玉の上にスッと細い指を置いた。
「場所なら、もう目星をつけてあります。誰も見向きもしない、都会の『空白地帯』を」
青龍は鼻で笑ったが、二人の目に宿る「飢え」に似た覚悟を見て、わずかに眉を動かした。
「……面白い。もし俺を納得させる場所を用意できたら、一肌脱いでやるよ。だが、失敗したらお前らの毛皮を剥いで、俺の冬用布団にしてやるからな」
レオは不敵に牙を見せた。
「上等だ。あんたのその酒臭い溜息を、清らかな神風に変えてやるよ」




