靴の温度
師匠と一緒に、三軒の店を回った。
どれも美味しかったはずなのに、味の記憶が曖昧だ。
ただ、どこにいても同じ匂いがした気がする。
鉄みたいな、少し甘い匂い。
最後に泊まったのは、小さなホテルだった。
チェックインのとき、受付の男が妙にこちらを見ていた。
年齢は俺より少し上くらい。
その目だけが、妙に覚えている。
外に出たとき、その男に呼び止められた。
「……靴は、絶対に自分のもの以外履くな」
何を言っているのか分からなかった。
師匠も気にした様子はなく、俺もすぐに忘れた。
翌朝。
部屋の前に、靴が用意されていた。
磨き上げられた革靴。
見たことがないほど綺麗で、思わず見とれる。
女性用の靴もあり、師匠は何の迷いもなく履いた。
「用意してくれるなんて、気が利くわね」
そう言って笑った。
俺も、それに続いた。
履いた瞬間、少しだけ違和感があった。
中が、ほんのり温かい。
まるで、誰かが直前まで履いていたみたいに。
それと、あの匂い。
鉄のような匂いが、わずかに強くなった気がした。
ホテルを出て少し歩いたところで、あの男にまた会った。
顔色が、異様に悪い。
「お前……それ……」
男の視線は、俺ではなく、師匠の足元に向いていた。
「お前は、その靴がなんなのか分かって履いてるだろ!」
怒鳴り声。
でも、師匠は振り返らなかった。
ただ、まっすぐ歩いていく。
俺も、その背中を追った。
スーパーに入ると、師匠は急に足早になった。
迷路みたいな通路を、どんどん奥へ進んでいく。
置いていかれそうになりながら追いかけていると、
背後から声がした。
「追え!」
振り返ると、あの男だった。
「お前は分かってない!
その靴は……ただの革靴じゃない!」
男は俺を押しのけて、先に走っていった。
意味が分からない。
足元を見る。
綺麗な革靴。
少しだけ、まだ温かい。
あの匂いもする。
鉄みたいで、でもどこか甘い匂い。
嫌じゃない。
むしろ、落ち着く。
そういえば。
この店、同じ匂いがする。
あちこちから。
床から。
壁から。
肉売り場の奥から。
なんだか、お腹が空いてきた。
今日は、ハンバーグがいいな。
挽肉、安いじゃん。
──これなら、いっぱい作れる。
気づいたときには、
師匠の姿は、もう見えなかった。
お久しぶりです。
最近異世界シリーズのアニメ増えましたね。
小説家になろうからの作品も多くとても満足しています。
さて、今回の題材は私が見た夢を覚えてる間にあらわしたものです。
とても面白い夢でした。
また、こういう夢を見たり、思いついたものがあれば単発で上げて行こうと思います。




