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靴の温度

作者: Kanon
掲載日:2026/03/18

師匠と一緒に、三軒の店を回った。

 どれも美味しかったはずなのに、味の記憶が曖昧だ。

 ただ、どこにいても同じ匂いがした気がする。

 鉄みたいな、少し甘い匂い。


 最後に泊まったのは、小さなホテルだった。


 チェックインのとき、受付の男が妙にこちらを見ていた。

 年齢は俺より少し上くらい。

 その目だけが、妙に覚えている。


 外に出たとき、その男に呼び止められた。


「……靴は、絶対に自分のもの以外履くな」


 何を言っているのか分からなかった。

 師匠も気にした様子はなく、俺もすぐに忘れた。


 翌朝。


 部屋の前に、靴が用意されていた。


 磨き上げられた革靴。

 見たことがないほど綺麗で、思わず見とれる。


 女性用の靴もあり、師匠は何の迷いもなく履いた。


「用意してくれるなんて、気が利くわね」


 そう言って笑った。


 俺も、それに続いた。


 履いた瞬間、少しだけ違和感があった。

 中が、ほんのり温かい。


 まるで、誰かが直前まで履いていたみたいに。


 それと、あの匂い。

 鉄のような匂いが、わずかに強くなった気がした。


 ホテルを出て少し歩いたところで、あの男にまた会った。


 顔色が、異様に悪い。


「お前……それ……」


 男の視線は、俺ではなく、師匠の足元に向いていた。


「お前は、その靴がなんなのか分かって履いてるだろ!」


 怒鳴り声。


 でも、師匠は振り返らなかった。

 ただ、まっすぐ歩いていく。


 俺も、その背中を追った。


 スーパーに入ると、師匠は急に足早になった。

 迷路みたいな通路を、どんどん奥へ進んでいく。


 置いていかれそうになりながら追いかけていると、

 背後から声がした。


「追え!」


 振り返ると、あの男だった。


「お前は分かってない!

 その靴は……ただの革靴じゃない!」


 男は俺を押しのけて、先に走っていった。


 意味が分からない。


 足元を見る。


 綺麗な革靴。

 少しだけ、まだ温かい。


 あの匂いもする。

 鉄みたいで、でもどこか甘い匂い。


 嫌じゃない。

 むしろ、落ち着く。


 そういえば。


 この店、同じ匂いがする。


 あちこちから。

 床から。

 壁から。

 肉売り場の奥から。


 なんだか、お腹が空いてきた。


 今日は、ハンバーグがいいな。


 挽肉、安いじゃん。


 ──これなら、いっぱい作れる。


 気づいたときには、

 師匠の姿は、もう見えなかった。

お久しぶりです。

最近異世界シリーズのアニメ増えましたね。

小説家になろうからの作品も多くとても満足しています。


さて、今回の題材は私が見た夢を覚えてる間にあらわしたものです。

とても面白い夢でした。

また、こういう夢を見たり、思いついたものがあれば単発で上げて行こうと思います。

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― 新着の感想 ―
異世界の食べ物は食べてはならないと同じで、自分の物ではない靴を履くと自分が異質なものに変わってしまう。 そんな話のように思えました。 きっともうこの靴は脱げないのでしょうね……。 そんなことを考えると…
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